~Responsibility of evolution~ リレー小説

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1◆kZDFwAt8do
2018-01-22 22:01:54
ID:ArURT92g

このスレはリレー方式でSF、学園、ミリタリーな小説をやるスレです

質問を受け付けるスレも作っているので、参加するときは気軽に質問をください


~あらすじ~

遠くない未来。極限まで医療技術が発達し、人類は完璧な電脳機械化を果たした。そんな機械人間、別称トランスヒューマンと呼ばれる彼等がごく当たり前のように生身の人類と共に社会を築いていく中、暴徒と化す者が次々と表れる。
まるで感染症のように拡散し、凶暴を極める機械人間。

政府はこの事態を「コンピューターウィルス」に彼等が侵されたと捉え、駆逐を実行する。
しかしどのような方法をもってしてもウィルスを駆逐する事は出来なかった。
そこで唯一ウィルスを完全に抹消する事が出来る存在が誕生した。

「超能力者」
圧倒的な身体能力と、超常現象を自在に操り、エネルギーを直接送り込む事でウィルスを破壊する力を持った人間。
米国政府は世界各地の超能力者を集め、米国を中心とし全世界に対機械人間国家間特別出動コマンドIncident(通称IDT)を創設する。
国軍とIDTの働きによって機械人間の暴走は人類に大打撃を与える前に制圧する事に成功するが、機械人間がウィルスによって暴徒となる事件が今も続いている……

超能力者は非常に希少であり、数が少ない。故にIDTの人手は常に足りていない状況である。

IDTは完全な平和の為に戦士を必要としている。

たとえそれが学生であっても……


[編集]
2◆kZDFwAt8do
2018-01-23 19:47:03
ID:N0nKsH4w

~オープニング~

都会町から外れた田舎。見渡す限り畑と田が広がり、春の訪れを喜ぶように草木は主張していた。人類の電脳機械化が進んだ時代に、全く似合わない風景である。
田と田に囲まれた丘に敷かれた線路には、旧式の電車がワンマン運転で緩やかに走る……筈だった。

時速90km/hで山あいを抜け、丘へ飛び出るように高速で走る二両編成の旧式電車。ワンマンカーだ。線路を削る轟音が轟く。
そう、今日の正午、敦賀方面に向かうワンマンカーが"ウィルス"に感染した機械人間によってジャックされたのだ。
機械人間は一人。人質は役17名。犯行の動機は不明。
それを知ったIDTはすぐに出動を開始。一人の超能力者を現地へ飛ばしたのだ。

駆動音を極限まで抑えた特殊ステルスヘリが電車が通過されるであろう通路の上空でホバリングしている。その真っ黒な航空機のハッチを開け、中から人が覗く。
彼の名は瀬名雫。TACネームはクロープ。今年で訓練を終了した超能力者だ。


「目標地点まであと2分。投下に備えよ」


ヘリパイロットが彼に通告する。それに応じて瀬名雫ことクロープは自身の装備を確認した。

側面にマウントレールを備えたヘルメットには赤外線カメラを装着し、その情報を投影する戦術マスクのバイザーカメラは青緑に光っていた。
オリーブドラブとタンで統一された装備品を目視で確認し、最後に右手に握る45口径の機関拳銃に注目する。グリップからはみ出た20連装マガジンに銃本体と同等の長さを持つサプレッサー。黒単色の大型拳銃だ。薬室に弾丸が装填されているのを確認し、安全装置を解除する。
最後にもう一度胸元に視線を向け、モールシステムが多用されたタクティカルベストの胸元に"ハックナイフ"が装備されているのを最終確認する。


「投下まで30秒」


ヘリパイロットが一秒ずつカウントを始めた。着々と数が減っていくのと同時に、緊張感も反比例して跳ね上がっていく。


「10秒前。9、8、7、6……」


数が0に近付いていく。マスクの下に隠れる額に一滴の汗が流れた。


「3、2、1。投下開始」


最後まで冷静に数えきるヘリパイロット。その言葉を聞いた瞬間、クロープは脊髄反射のようにヘリから飛び降りた。高度80m、着地目標は時速90km/hで走る二車両の旧式電車。
バイザーには着地地点までのマーカーが表示されている。クロープはそれに従って全身から放出する超能力エネルギーの慣性制御で自身を制御する。
空を完全に待っているこの感覚。落下速度が異常なまでに遅く感じる浮遊感。しかしそれも束の間、視界には旧式電車の屋根が飛び込んだ。

クロープは電車の屋根に着地する。とてつもない運動エネルギーを肉体に浴びる。吸収しきれないエネルギーを屋根を転がることで逃がす。
三回ほど転がり屋根を滑る。その勢いを保ちつつ、電車の最後尾のフロントガラスにハックナイフを突き立てて叩き割った。
頭から飛び込むように電車内へ侵入。ここまでの芸当はとてもじゃないか普通の人間が出来るモノじゃない。
最後部のドアを開け、先頭へ早足で向かうクロープ。視界の脇にはガムテープで拘束された老人達が転がっている。しかし今は人質の確保が最優先ではないのだ。
ロックされた連結部分のドアを無理矢理抉じ開け先頭車両へ突入しようとした刹那、ドアの向こうから全力疾走してくる真っ白の機械人間。
彼の目は真っ赤に血走っており、死に物狂いでこちらへやってくる。

それを確認したクロープはその場で発砲開始。分速600発で次々と強化45ACP弾がガラスを突き破って機械人間へ。
しかしまるで豆鉄砲を払うかのように手で凌ぎ、ドアを蹴り破ってクロープにナイフを振り下ろした。
刃渡り34cmの大型ナイフ。見た目からして戦闘用だ。それを左腕で直に受け止めるクロープ。

しかし刃を受けてもクロープの腕は傷付かない。切断されるどころか、まったく傷痕がついていないのだ。
それはそうだ、IDTが装着する"シールドスーツ"は全身を覆う超能力エネルギーによって全てのダメージを遮断する。弾丸も、刃も、爆風も全てだ。
刃を当たり前のように腕で受け止めたクロープに対し、疎む機械人間。しかし次の瞬間には彼の胸元を掴んで運転席の方へ真っ直ぐ投げ飛ばした。
背中を打ち付ける。ナイフを受け止めた衝撃と重なってシールドスーツの作動限界が近づいてきた。そう、一度蓄積した超能力エネルギーを越えるダメージを受けるとその完璧な防御力は次のエネルギー蓄積まで失ってしまうのだ。

マスクのバイザーに[攻撃を回避せよ]と警告文。このアラートに気を取られ焦ってはならない。
クロープは速やかに体制を戻し、その場でしゃがみ撃ちを開始。残り12発の強化45ACP弾を走り出した機械人間へ撃ち込む。しかし動きが止まる様子はない。
機械人間は再びナイフを振り上げてクロープへ組み掛かった。だが二度も同じ手は通用しない。クロープは振り下ろされた腕を流し、そのまま肘に固定する。ナイフを握っていた手を容赦なくもぎ取ってその場に投げ捨てる。
無力化された機械人間は諦めずにクロープへ格闘を持ち込むが、前のめりのまま突き出した拳をそのまま受け流され、見事な背負い投げを食らう。床に思い切り叩き付けられた機械人間。緊急作動した痛覚機能で痛みにもがく。
クロープは床で苦しむ機械人間の胸にストンピング。更に機械人間はもがいた。
素早くハックナイフを鞘から抜いたクロープは、完全に自由を奪われた機械人間の首に向かって容赦なく刃を突き刺す。機械音声の断末魔が電車内に響いた。

ハックナイフから機械人間へ直接エネルギーを送り込み、彼の身を侵していたウィルスを完全破壊。マスクのバイザーには[任務完了]と表示されていた。
しかしこれだけで任務は終わらない。クロープは骸となった機械人間を退かし、急いで運転席へ向かう。
運転士は既に動脈を切り裂かれ死亡していた。死体を席から離し、クロープは電車のブレーキを作動する。
線路と車輪からとてつもない轟音。数秒轟いた後、完全に停車。


「こちらクロープ。緊急停車成功、人質に被害無し」


クロープこと瀬名は通信を開始。


「こちらα-リーダー、了解。そちらに救出チームが到着するまでその場を確保しろ」


「了解、通信終了」


短い通信。
そのとき、瀬名は全身の力が抜けたようにその場へ座り込む。
無事に成功した。その言葉が頭に渦巻き、彼に安堵を与えたのだった。

3非花舞 オープニング1/3
2018-02-09 04:04:14
ID:hlU4ZI6s

日本ー某所
背中が汗で湿り始めるのを感じながら、日火秋穂は生垣の陰に身を潜めていた。
彼女を汗ばませるのは初春の暖かさだけではない。
防弾チョッキやシールドスーツに加え胸を包むハードバスト等の重装備がそうさせていた。

最後に音を聞いたのがいつだったかはもう覚えていない。
道路を挟んで反対側のテロリストのアジトを注意深く見る。
戦術マスクの暗視機能を通しても敵に気付かれた兆候や異常な点は何も見つからなかったようだ。
少なくとも外から見る限り。

『 こちらタチバナ、準備完了、標的確認できず。』

イヤホンに狙撃チームの報告入る。
テロリストの家と言われても前述の通り外から見る限りなんの異常もない住宅街の普通の家だ。
セメントの切妻屋根、地震大国日本向けの耐震性耐防火性に優れた窯業サイディングの壁、窓枠に至るまで日本中どこにでもある多くの家のと変わらない。
しかしこの何の変哲もない住宅に、狂った機械人間が確かに立てこもっているのだ。
カーテンは閉じて内部は確認できないがスナイパーの餌食にならないよう窓から離れているのだろう。

『ハマギク』

チームリーダー――ソーラ・レイが日火秋穂のTACネームを呼び、合図を出すと彼女は動き出した。
深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
するとグローブの指先に極小の染みが出現した。
染みは徐々に広がっていき、直系7センチに到達すると盛り上がり始めた。
丸い透明の頭が這い上がり、半球を形成する様子は日の出のよう。
完全な真球型に膨れ上がった時、それは指先から離れ、ふよふよと浮遊しだした。
垣根をバッグに浮遊するテニスボール大の球体に秋穂が小型カメラを取り付け、端末を開く。
秋穂が再び意識を集中すると、今まで風のゆくまま幽霊の如く漂っていただけの球体が今度は意思があるかのように動き出す。
垣根を越え、道路沿いを進み、夜の闇の中に消えていった。


細長いトンネルと、その下部を占める水流。
イヤホンに水の流れがこだまする。
カメラの暗視機能を通した映像が端末に映し出されていた。
球体は100m離れた所のマンホールから下水道に侵入し、こちら側に引き返す真っ最中だ。
ディスプレイの左上に表示された下水道の見取り図と映像を交互に睨む。
テロリストのアジトの真下に到達すると、間もなく球体は上昇し始める。
狭い下水管を汚物にまみれながら突き進んでいると、なにかに当たった。
押し上げるとなにかは開き、一畳分もない個室に出た。トイレだ。
ドアノブを押し開くと細長い空間が現れた。
間取りのデータを照らし合わせるとここは廊下で、右手に進むと先にあるのはリビングだ。
データによると広さは12畳。廊下から真っ直ぐ突き進んだ位置に二階への階段がある。
神経を張り詰めてリビングに入ると複数の人影が確認できた。
数は2。白い装甲がテーブルのランプに照らされている。機械人間だ。
部屋の光源はランプのみで球体は透明、視認によって気付かれる可能性は低い。
しかし壁や壁に擦れて音を立てようものなら一瞬で終わりだ。
そうなれば奴らはさっそく重要なデータを始末して集団自殺の準備を始めるだろう。
針に糸を通す思いで一層神経を張り詰め、床を這うようにリビングを通過し二階に上った。

4非花舞 オープニング2/3
2018-02-09 04:05:23
ID:hlU4ZI6s

『"バルーン"での偵察は完了しました。
機械人間の数は3です。2体がリビングで残りが二階の階段の突き当たりにある個室……あの部屋で待機しています。』

秋穂端末の見取り図と白いカーテンを指す。
<超能力物>
IDTによって集められた、あるいは生み出された超能力者はその名の通り様々な特殊能力を持つ。
銃撃をも通さない障壁を生成する者。
火や雷、空気を操る者。一瞬で遠くへ移動する者。
触れずして物体を動かす者。心を読む者。
そして日火秋穂の超能力は超能力エネルギーを膜状の物質に変換・放出して、風船を作るというもの。
元は彼女自身のエネルギーなので風船は大きさも色も形も操作も思うがままだ。

『人質はなし。裏口は鉄で裏打ちして補強しており、ブービートラップは玄関ドアの側柱のシート爆弾だけです。
敵の装備は・・・』

結果を聴き終わったソーラレイの指示で裏手に回ると、次にチームの爆破担当、ライディーンに指を二本立てた。
ライディーンは頷くと、ポーチから慎重に薄いシート状のプラスチック爆弾を取り出した。


1分も立たぬうちに、突如一帯の街灯が消え、あたりは闇に包まれた。
技術者が周辺の全電力が切ったのだ。
「今だ」とソーラ・レイ。
ライディーンはプラスチック爆弾をドアに貼り付け起爆装置を作動して、すぐに飛び退いた。

内側に吹っ飛ばされたドアが凄まじい音を立てて床に叩きつけられる。
ほぼ同時にリビングからも殺人的な凄まじい破裂音が響き、室内の空気を震わせた。
先程侵入してリビングに潜んだバルーンを一気に膨張・破裂させた。
暗闇とスタングレネードに匹敵する爆音に機械人間の危険センサーが作動する。
機械人間と言えど目も見えず突然の出来事に身動きが取れずにいるに違いない。

『ゴー、ゴー!』

ソーラ・レイがすばやく入口を抜けて突入し、左の壁沿いを進む。
M27を構えた秋穂が、そしてそのさらに後ろにライディーンが続く。
1人が前進する度にもう1人が援護し、これを繰り返しながら交互に前進する。
廊下を左に折れるとすぐにリビングに出た。
秋穂が頭だけ覗かせて見回すと、右目の端に動くなにかが映った。
このリビングに存在するのは機械人間二体目とIDT隊員が三名。
バイザーに敵を示す警告が表示されるのとほぼ同時に秋穂が引き金を引いた。
パララララッと断続的な発射音が轟き、機械人間は頭部を吹っ飛ばしながら足元に倒れていく。
倒れ込んだ機械人間にハックナイフでとどめを刺す。
ソーラ・レイの戦術マスクのサーモがもう一体を見逃さなかった。

『机の陰だ!』

三人はリビングに飛び込むと横になったテーブルに向けて同時に発射する。
弾丸の雨を浴びてテーブルと機械人間の破片が部屋中に飛び散った。
秋穂はもはやただの木材と化したテーブルを回り込み、しゃがみ込んだ体勢のままバラバラになった機械人間に刃を突き立てた。

5非花舞 オープニング3/3
2018-02-09 04:06:36
ID:hlU4ZI6s

残るはあと一体。二階へ上がろうとした時、不意にそれは向こうからやってきた。
サブマシンガンを手にした機械人間が階段を一気に飛び降りた。フローリングが悲鳴をあげる。
階段の前にいたソーラ・レイは押し潰されてはたまらないと後ろに飛び退いてで回避するも、腹に三点バーストを食らわされる。
シールドスーツに守られ負傷はしなかったが、間髪入れずに蹴りを入れられ廊下の曲がり角まで吹っ飛ばされた。
横にいたライディーンが咄嗟に動く。が、なにもできないまま窓へ投げられ消えていった。
左目の端でこちらへ銃口を向けるもう1人のIDTを捉えた。秋穂だ。
機械人間が剛腕を振るうと、M27の銃身は2時の方向へぐにゃりと歪んだ。
壁にめり込み磔にされたソーラレイにとどめを刺すのは容易い。
外へ投げた隊員が戻ってくる前にシールドスーツの限界まで弾丸を叩き込みミンチにしてしまいたい所だが、リビングを出る前ににまず目の前の秋穂を始末する必要がある。
再び、機械人間の白い腕が空気を切り裂いて秋穂へ突き進む。
ソーラレイのように壁に叩きつけて身動きを封じたらあとは銃撃を浴びせるだけだ。
重い一撃が確かに秋穂の胸部にぶち込まれる。
しかし次の瞬間壁に叩き付けられたのは機械人間の方だった。

ありえない、何をしたんだ、とでも言いたげな表情の機械人間。
その目に映ったのは、いつの間に現れたのか秋穂の目の前に浮かぶ赤い風船だった。
なんとも場違いで楽観的な異物。
秋穂は仲間二人がやられた事から攻撃を予測してあらかじめ作り出した風船をM27の陰に隠していた。
そして拳が飛んでくると同時に膨らました。
攻撃を受け止めた風船は凹んでエネルギーを全て吸収し、元に戻る反動ではねかえしてみせた。

激昴した機械人間がサブマシンガンを向ける。
秋穂はM27を投げ捨てて横に駆け出した。そのあとを床の弾痕が続く。風船が赤い身を散らす。
秋穂が壁に足を振り上げて蹴る。まるで重力を無視して壁を走ったように見えた。
再び壁を蹴り、今度は機械人間の方へ飛び、身を翻して勢いを殺さず顎に踵を叩き込んだ。サブマシンガンが床に落ちる。
怯む機械人間に着地するやいなや首に肘打ちを見舞う。
生身の人間なら頚骨が砕けてたどころではすまない。
秋穂はそのまま力を入れて壁に押し付けると、ハックナイフを抜き、もがく機械人間の頭部に突き刺した。

「任務完了」の四文字がバイザーに表示されるのを確認して、肘を離すと、機械の身体は糸の切れた人形のようにその場に崩れる。
速まっていた秋穂の脈がようやく正常に戻り、初めて廊下で磔になった仲間を思い出した。


日火秋穂(ニッタ アキホ)。女子。18歳。高校2年生。
好きな俳優と尊敬する人物はジャッキー・チェン。平均睡眠時間およそ11時間。
小学に上がる前からメガネをつけていたが、手術に伴い視力が上がったので必要なくなった。
この前実戦が嫌で醤油一気飲みして病院に運ばれた。もう二度としないと誓う。
家族に死ぬ程怒られたし実際死にかけたから、よりも家族以外で誰も見舞いに来てくれなかったからだ。
クラスメイトの中には一年生で同じクラスだった人もいた。それなりに話もした。
しかし誰も来なかった。理由はわざわざ言われなくても理解している。
とにかく自分の居場所は結局IDTだけなんだと悟った。
家族を守るためにも、私の居場所を守るためにももう二度と逃げない。と誓った。
好きな映画は酔拳とプロジェクトA。
趣味は植物を育てる事と筋トレ。
未成年飲酒をしでかしたけど、自分しか知らないので今のところ前科はない。

6MIA bogey◆9T/T0pG8Qo
2018-03-18 12:20:10
ID:9aBmYQOM

―――――――

アトラクションのみがゆっくりと動く無人の遊園地の中、一人のガンスリンガーが立っている。
鍔が広く鎖の巻いてあるカウボーイハット、少ししわの寄った白色のシャツ、茶色のベスト、所々色あせたこれも茶色のズボン、上半身を覆うボロボロのマント、そして二本のガンベルト、ホルスターが左にある物と右にある物。
その姿形はいかにも西部劇と言った体で、周囲の風景とかけ離れ場違いな印象を与える。

「アリス、準備はいいか?」

耳に付いた無線で男が問いかけた相手は約150m離れ、IDTの制式装備を着た女―――女性装備特有の胸の膨らみでそれと分かる―――が、男に向けた対人狙撃銃PGMウルティマラティオのスコープを覗いている。
少し上を見上げれば、少し遠くに黒色の静音ステルスヘリが飛行しており、哨戒に当たっている。

「任務中はTACネームで呼んでよ、"キルショット"って……大体こっちはこんなヘンテコなショボい城でずーっと狙って、撃っての繰り返しするのよ?」
「Tシャツを売ろう、"EAT,SLEEP,AIM & SHOOT,REPEAT"って」

アメリカはテキサス内の遊園地において1人の機械人間が"ウィルス"に感染、さらに同時刻に居合わせた10人ほどの機械人間も感染し、レストラン内の客を人質に立てこもったとの通報が入ったのは約10分ほど前。
これに対してIDTが送り込んだのがこの二人、TACネーム"デスチェイン"、ジューダス・バッドタトゥー、そしてTACネーム"キルショット"、アリーシャ"アリス"ケインである。

「まず人質を外に出せればいいんだが、そうもいかないよなぁ」
「どっちもワームホール持ちの癖に、こっちは開くのに1分、そっちは半径10cmだしね、いつも通り一、二発ぶち込んでやるところから始める?」
「飛び出してくれれば良いけどな。じゃあ行くぞ、1345、作戦開始」

その声が終わるか終わらないか、といったところで、キルショットが撃った7.62×51mm NATO弾がレストランの窓を叩き割り、1人の機械人間の頭を貫く。
中に居る機械人間が一斉に振り向くと、その視線の先にジューダスを捉える。
目尻から裂けるのではないか、と思わせるほど見開かれ、白目が赤く見えるほどに血走った目が合わせて22個、その視線がジューダスのそれと絡み合い交錯する。
最初の機械人間が窓を突き破って外に飛び出し、さらに次々と別の窓から、割れてガラスも残らない窓から、飛び出してジューダスへの距離50mを疾駆する。
ジューダス当人はいたって冷静で、僅かな笑みすら浮かべている。視線が機械人間を舐め回すように捉え、一瞬のうちにその視線の網が全てに対して張り巡らされる。手が痙攣するかのように震え、『GO!』の指令を待つ。

一人目が銃の有効射程距離に到達。目の色が今までの物とはうって変わり、億の鷹の目を重ね合わせたかのような鋭い視線が放たれる。面白がっているような笑みに、冷酷とも取れるような色が混ざる。
精神が「ジューダス・バッドタトゥー」としての意識から「Deathchain」のそれへとシフトした。
目にも見えぬ速さで手が二つのホルスターからリボルバー、右の「アルファ」と左の「オメガ」を抜く。2人の相手の眉間へ44マグナムを正確に撃ち込み、同時にキルショットの狙撃が別の機械人間の頭を貫く。

銃声が響き、装甲が弾け飛ぶ。統制なく突進する機械人間たちを、デスチェインとキルショットの二人は完全に調和のとれた、今まで幾度となく繰り返されたいつも通りの動きで迎え撃っている。

最後の一人、右手にクレーバーを持った者がそのクレーバーを振りかざして突進する。
デスチェインは右手首を撃ち飛ばし、最後に残った「オメガ」の一発。左膝を撃ち砕いた。
1メートル半ほどの距離。埋めようと機械人間がもがくが、哀れそこには少しの力もなく、ただ地を掻く。
悠々と頭に照準を合わせ、撃鉄を起こす。

「バーン」

と、ジューダスが言うと同時に、キルショットの一射が頭を吹き飛ばした。

「デスチェインより上空班、任務終了だ。後始末したら帰るよ」

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