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9吹雪◆b3lQN4Q8gI
2018-07-20 23:39:32
ID:9Rjd1DOI(sage)

aw:2018/06/24(日) 22:48
「……失礼します」

昨日は、元気に挨拶できた。でも今日は……

私はさっきのことがあって、かなり落ち込んでいた。


「はーい。次のレッスンまで、しっかり休んでくださいね」

「はい……」

受付のお姉さんはいつも笑顔だな……見習いたい。


「よっ、今帰りか?」


「あ……プロデューサーさん」


事務所を出ようとする私に話しかけてきたのは、大和プロデューサーだった。


「ユニット結成。そしてレッスン初日。どうだ?」

「どうだ……って言われても」

なんだか大雑把すぎて、返事に困ってしまう。


「そうか、ちょっと答えづらかったな。……楽しいか?」

「たのしい……ですか」


私は、さっきのことを思い出す。あんなことがあるんじゃ、楽しいなんて……


「………楽しく、無いです」

言えるはずなかった。


「ほう?オーディションの資料を読ませてもらったが、君はすごくアイドルに憧れていた。だが、入ったらこうなった。なぜだ?」

「実は……」

……プロデューサーさんに、レッスンでの出来事を話した。


「なんで出来ないの、か。中々ストレートだな」

少なくとも、良い方には受け取ってもらえたらしい。


「私、あんなふうに言われてつらくて……でも、同じユニットの仲間だし……」

「高木のこと、悪くは思ってないんだな?」

「……はい」


同じユニットの仲間だし、それにあっちが全部悪いってわけじゃない。
私にも……


「出来ないこと、出来るようになりたいか?」

「え……?」


出来るように……あの綺麗なターンを………


「私には、無理だと思います」

そう。あれは、自分には真似できない。それくらい、すごい……。


「……じゃあ、他のことで見返してやれ」

「あ……」

無理って否定したから、それをくつがえすような言葉が来ると思ってた。
でも違った。


「自分だけのこと、何かあるだろ?」

「わたし、だけの……?」


私にしか出来ないこと……
あんなターンは出来ないけど、他になにか―――

10吹雪◆b3lQN4Q8gI
2018-07-20 23:39:59
ID:9Rjd1DOI(sage)

2018/06/24(日) 23:06
「……そうだ、プロデューサーさん。聞きたいことがあるんです」

「なんだ?」

あんまり気にしてなかったことだけど、今更気になりだしたから……聞いてみよう。


「オーディションには、もっと大勢の女の子がいました。でも、合格したのは私だけ。なんでですか?」


―――参加してる女の子たちはたくさんいたけど、どれくらいの人数が……



「……うちの事務所、二人しか雇う余裕が無いんだよ」

「へ?」

結構予想外の返事だった。それはつまり、貧乏……


「社長が突然、事務所を休業しちまってな。俺含めて一部のスタッフ以外は、自主的にやめてもらった。所属アイドルもだ」

「休業って、なんで……」

「さあな。何も言わずに、だ。期間は三年ほどだった。最近再開したは良いが、また無名事務所からやり直しだ。
資金援助も中々受けられない」


芸能事務所って、大変なんだな……と思った。
こんな事務所で大丈夫なのかな……とも。



「心配するな。俺が二人を全力で売り出してやるから」

「は、はい……」


……そうして、大和プロデューサーと別れた私は、家に帰るのだった。

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