…日光が幾多の木の葉に通され、『ここ』だけ深緑色に染まっている。風が木の葉を揺らし、『ここ』だけに涼しい音を響かせる。
…蝉の声が向こうから聴こえてくる。『ここ』ではない何処かから。
……じゃあ、『ここ』は一体何処なんだ？
俺は、深緑以外の色を求め目を動かす。しかし、自身のTシャツの青色、ズボンの黒色、スニーカーの赤色、そして、手に持っている虫網の透き通った白色以外に見つけられなかった。
ただ一色に統一されていた世界に混ざってしまった、文字通り「異色」の自分……
ここでようやく何か得体の知れぬ感覚が体の芯から沸き上がり、子供ながらに『ここ』に居てはいけないと悟った。
だからそそくさと蝉の鳴き声がする方へ、『ここ』じゃない所へ、俺の赤色を動かした。
…その赤色と同じような朱色(あかいろ)が目に映った。