「霧雨さん、霧雨さーーーん!!」
泣き叫ぶ吹雪に、獄卒は
「心配すんな、きっとまた会えるよ」
とやさしく声をかけた。
「ありがとう」
しばらく泣き続けていた吹雪は、女獄卒の言葉でようやく落ち着きを取り戻した。
「さ、次の地獄に着いたぞ。アタイはここで帰る」
獄卒は裸の吹雪に古墳時代の衣?(きぬはかま)姿みたいな地獄見学者専用の衣服を渡すと、ニッコリと笑った。
「あの・・名前を教えていただけませんか?」
獄卒は決まりが悪そうにはにかむと、
「名前なんてたいそうなもんはないよ。でも、みんなはアタイのこと、『闇のふかづめ竜子』って呼んでるよ」
と言った。
「ふかづめ竜子さん・・」
吹雪は女獄卒を真剣にみつめた。
「竜子さんて、いい人ですね」
このとき、女獄卒の胸がにわかにポカポカと温かくなり、内在的超越による『仏(ホトケ)』が誕生した。ホトケの名を「弓釈子」という。仏教でいえば「釈迦如来」に相当するホトケである。
このしばらくあと釈由美子に転生した竜子は、ドラマ『スカイハイ』で「怨みの門」の門番「イズコ」役を演じ、こう言い放つことになる。
「おいきなさい」
外在的な絶対的超越者としての「仏(ホトケ)」など存在しないし、かつて存在したためしもかった。内在的な、内側(自分)に向かっての超越こそ、「仏(ホトケ)」の神髄なのだ。