等活地獄に足を踏み入れた吹雪は、うすぼんやりした道の先に、誰かが立っていることに気付いた。何か棒のようなものを持った女性だった。
「ありぃさん!」
吹雪は思わず叫んだ。前世において、メイドカフェ「Tea Room 有栖」で同僚として働き、そのメイドカフェの店長「有栖」がプロデュースしたアイドルユニット「アナーキー乙女」でも同じメンバーとして一緒に活動した「ありさ」、通称「ありぃ」とこんなところで再会しようとは。
「よう、吹雪。久しぶり」
顔面ピアスだらけの女獄卒ありぃは、かついだ野球バットで肩をポンポンと叩きながら吹雪に挨拶した。
「ひょっして・・ありぃさん、獄卒なんですか?」
吹雪はもう少しで吹き出してしまいそうな自分を我慢した。
「悪いか?」
「いや、でもなんか・・ピッタリだな、って思って・・」
「自分でもビックリしてるよ。女獄卒とはね。ここに来てもう何百年にもなるけど、結構自分に合った仕事だと思う」
ありぃは苦笑した。
「等活地獄って」吹雪は唐突に疑問をぶつけてきた。
「たしか、人間とか動物を殺生した人が落ちる地獄ですよね」
ありぃは急に真面目な顔をして、
「普通はな」
と答えた。
「だが、ここは違う。ここの『等活地獄』は『部分的正義に固執した者』が落ちる地獄だ」
「部分的正義?」
「だいたい、殺生したヤツの罪を殺生で罰するとか、矛盾も甚だしいだろ。『殺生』そのものが悪なのだとしたらね。仏教の等活地獄なんて所詮、人間の想像力が生み出したファンタジーにすぎないんだよ」
「ここは違うんですか?」
「明確に違う。ま、見ればわかるさ。ついてきな」
ありぃは吹雪を待たずスタスタと歩きだした。吹雪もそれを追ってチョコチョコと歩きはじめた。