しばらくひとりでトボトボと歩いていると、前方から馬がやってきた。そして優しい顔で吹雪の前に止まった。「霧雨さん!」吹雪は、馬の首に抱きついて泣きじゃくった。1889年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれている馬に駆け寄り、首を抱きかかえ号泣する。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を親しい人々に看取られて穏やかに過ごしたという。 馬のその後は誰も知らない。