aw:2018/06/24(日) 22:48
「……失礼します」
昨日は、元気に挨拶できた。でも今日は……
私はさっきのことがあって、かなり落ち込んでいた。
「はーい。次のレッスンまで、しっかり休んでくださいね」
「はい……」
受付のお姉さんはいつも笑顔だな……見習いたい。
「よっ、今帰りか?」
「あ……プロデューサーさん」
事務所を出ようとする私に話しかけてきたのは、大和プロデューサーだった。
「ユニット結成。そしてレッスン初日。どうだ?」
「どうだ……って言われても」
なんだか大雑把すぎて、返事に困ってしまう。
「そうか、ちょっと答えづらかったな。……楽しいか?」
「たのしい……ですか」
私は、さっきのことを思い出す。あんなことがあるんじゃ、楽しいなんて……
「………楽しく、無いです」
言えるはずなかった。
「ほう?オーディションの資料を読ませてもらったが、君はすごくアイドルに憧れていた。だが、入ったらこうなった。なぜだ?」
「実は……」
……プロデューサーさんに、レッスンでの出来事を話した。
「なんで出来ないの、か。中々ストレートだな」
少なくとも、良い方には受け取ってもらえたらしい。
「私、あんなふうに言われてつらくて……でも、同じユニットの仲間だし……」
「高木のこと、悪くは思ってないんだな?」
「……はい」
同じユニットの仲間だし、それにあっちが全部悪いってわけじゃない。
私にも……
「出来ないこと、出来るようになりたいか?」
「え……?」
出来るように……あの綺麗なターンを………
「私には、無理だと思います」
そう。あれは、自分には真似できない。それくらい、すごい……。
「……じゃあ、他のことで見返してやれ」
「あ……」
無理って否定したから、それをくつがえすような言葉が来ると思ってた。
でも違った。
「自分だけのこと、何かあるだろ?」
「わたし、だけの……?」
私にしか出来ないこと……
あんなターンは出来ないけど、他になにか―――
2018/06/24(日) 23:06
「……そうだ、プロデューサーさん。聞きたいことがあるんです」
「なんだ?」
あんまり気にしてなかったことだけど、今更気になりだしたから……聞いてみよう。
「オーディションには、もっと大勢の女の子がいました。でも、合格したのは私だけ。なんでですか?」
―――参加してる女の子たちはたくさんいたけど、どれくらいの人数が……
「……うちの事務所、二人しか雇う余裕が無いんだよ」
「へ?」
結構予想外の返事だった。それはつまり、貧乏……
「社長が突然、事務所を休業しちまってな。俺含めて一部のスタッフ以外は、自主的にやめてもらった。所属アイドルもだ」
「休業って、なんで……」
「さあな。何も言わずに、だ。期間は三年ほどだった。最近再開したは良いが、また無名事務所からやり直しだ。
資金援助も中々受けられない」
芸能事務所って、大変なんだな……と思った。
こんな事務所で大丈夫なのかな……とも。
「心配するな。俺が二人を全力で売り出してやるから」
「は、はい……」
……そうして、大和プロデューサーと別れた私は、家に帰るのだった。