前髪が少し、切れた。
「…切れ味は抜群なようだな」
「当たり前だ。これはラーの剣…私を殺した、唯一の剣だ」
オリヴィエは両手を伸ばすと、そこから焔のレイピアを創りあげる。炎は細く鋭い形に変化し、赤色のレイピアになった。
オリヴィエは構える。
先に動いたのはアポピスのほうだった。金の剣を両手に構え、剣先を交える。
甲高い金属音が鳴り響いた。
オリヴィエはぐっと踏み込むと、剣を上へ振り上げる。
アポピスの左腕が、切り落とされた。
腕は蛇になって地面へと落ちる。
赤い舌をちろちろと覗かせた銀の鱗の蛇は、アポピスを見上げた。
剣を片手で握り込み、再び構えを取るアポピス。
「たとえ片腕になったとしても、私は…!」
「アポピス…、お前は、」
ぐっと、オリヴィエは言葉に詰まった。
「……本当は、本当は戦いたくなどない………ラーの育てたこの世界を、私が居ない世界を、見ているだけで良かったのに…」
ぽた、と乾いた地面に水が落ちた。
「……アポピス……」
アポピスは、その闇色の双眼から涙を流していた。
アポピスはレイピアを下ろす。
オリヴィエは、無防備なアポピスにレイピアを、
「言っただろう、俺はお前を殺さない」
オリヴィエはレイピアを首筋に突き付けた。
「いいか、これから喋ることに返事をする許可は与えない。
お前は俺の攻撃で死んだ」
「、」
アポピスが、不可解だと言いたげな顔をする。
「この首のレイピア、分かるか?俺がもう少し動かせばお前の首を切れる。これでお前は死ぬ。だから、俺はあえてお前を殺さない」
「!」
驚愕するアポピスをよそに、オリヴィエはそっとレイピアを下ろした。
アポピスが剣を取り落とす。
「…折角だから、もう少し、ラーの育てた世界を見ていかないか」
落とした剣は金の蛇になって、銀の蛇に近寄る。
銀と金の蛇は、仲良さげに寄り添っていた。