「いやー、ひかりさん、助かった!ありがたい!」
「歩くん」
「ん?」
ひかりは少し俯いてこう言った。
「…ひかりって呼んでほしい」
「…へっ?」
「だってわ、私は歩くんって呼んでるけど歩くんは私のことさん付けじゃん!それって不公平じゃないかなー、なんて、あは、あはは…」
「…えーっと、…ひかりちゃん」
「!!」
そう呼ぶだけで、少女はわかりやすい程に頬を真っ赤に染める。
さっきから甘い空気が広がるだけで全く進んでない。オリヴィエは心底うんざりしていた。
突如。
地面が大きく揺れた。
「!!」
「ひかりさ…ひかりちゃん、伏せて!少しここで待っててな、すぐ戻ってくるから」
窓を開けて飛び出す。ここは2回だが、オリヴィエと波長を合わせることによって歩の肉体にはほとんど影響は無い。
「これは…」
「な、なんだこの…すげえ禍々しいの…」
「魔界と人間界を繋ぐゲートだ…だが酷く不自然だな。無理矢理開かれたもののようだ」
「それって、やっぱり敵…!」
ゲートからは、微かな瘴気が溢れている。
このまま放置してしまえば、この周囲の人間に被害が及ぶだろう。
「歩、お前はここで待っていろ」
「はあ!?何で急に…!」
「何でもだ。早くあの娘のところへ行け」
「っ、何だよ!ここまで巻き込んでおいて結局俺は放置か!いいご身分だな!」
「なっ、待て歩!それよりお前は…!」
歩はオリヴィエを突き飛ばすと、走ってひかりの家へ戻ってしまった。
オリヴィエには、こういう時どうすればいいのか分からない。すぐに追いかけた方がいいのか、目の前の敵を処分してからの方がいいか。
「…ッち、」
オリヴィエはゲートの方へ歩くと、その瘴気の中へ飛び込んだ。
「ようこそ、私の世界へ」
「…!!どういうことだ、魔界に夜は無いはず!」
そこには黒い闇に覆われた魔界と、長い髪をひとつにまとめた男が立っていた。
「私はアポピス。永遠の夜を司る者」
「…この魔界の状況は、お前が原因か」
「そう。私を倒さなければ、魔界は永遠の夜に支配されるのみ」
「…忘れているようだが、俺は太陽の化身。この程度の夜、直ちに明かしてみせる」
アポピスは小さく呟いた。
「そう…だから私は、戦っている…」
「…?どういうことだ」
「さあ、オリヴィエ。太陽の化身よ。私と戦え、そして、」
アポピスは深い闇色の目を細めてこう言う。
金色の杖が、金属音を鳴らした。
「私を、殺せ」