しかし、犇めき合う男たちの中には、逆のベクトルをもつ者もいるわけです。普通の人間が、他人よりも「上」に立とうとするのに対して、他人の「下」に跪きたがる人間です。作家の沼正三は、『ある夢想家の手帖から』という本において、この「下への衝動」を「スクビズム(succubism)」と呼び、この概念によって、いわゆる「マゾヒズム」がすべて説明できる、と述べています。