茂木健一郎「脳とクオリア」
人間に自由意志が存在するということは、私たちが私たち自身について考え、人間的な価値観や、モラルを形成する
上で、死活的に重要な前提だ。もし、人間に自由意志が存在しないとしたらどうなるだろうか?ある人間が将来どの
ような行為をとるかが、あらかじめ決まっているとしたら?私たちがどのような意志を持とうとも、そのような意志
を持つこと自体があらかじめ決定されているとしたら?そのような世界は、私たちにとってかなり受け入れにくい
はずだ。実際、自由意志がないとしたら、私たちの人間観、社会観の多くは、その根底から崩壊することになるだろう。
外に選択肢がなかったのだとしたら、どうして犯罪者を責めることができようか?
もし、自由意志がないのだとしたら、人間のあらゆる努力は意味のないものになり、人間の尊厳さえ、失われること
になりかねない。
このように、「自由意志」があるかないかという問題は、私たち人間の存在の根幹に関わる、重大な問題だ。もし
自由意志がないのだとしたら、私たちの人間観、世界観はまったく変わったものにならざるを得ないのである。