堂本香織です

127名無しさん
2022-03-29 04:27:20
ID:kqmuP82s(sage)

この小説でも北日本と南日本に分断され、戦争が起こります。ただ、「日本分裂」が常に“神の視点”から大局だけをえんえんと描くのに対して、こちらは地を這うような庶民の目線での描写となります。
 
前者は、どことどこがどのように戦っているのかがとてもよくわかるのですが、小説を読んでいる気がしません。作者の興味が、分断された日本の歴史記述にあるのですから、当然といえば当然なのですが。

後者は、どうやらソ連と戦っているらしい、ということはわかるのですが、大局についての記述がないため、ただただ登場人物の体験を脇から目撃することに終始することになります(しかし、その描写はリアルです)。
 
両者のバランスがとれていればもっとわかりやすいのですが――と書いたところで、ファーストガンダムに比べて『Z』がわかりにくかったのは、単に勢力が増えたからだけではなく、それについての大局的な説明がなかったからだということに思い至りました。
 
-----------------------------------------------------------
 
 出発してから3時間ぐらいが経った頃だった。



 突如、爆音とともに黒い点が何個か青空に浮かんだ。その黒点はきらきらと光りながらこっちへ突っ込んでくる。



「敵機ッ!」



「散れーッ!」



 黒点の翼端がきらめいて、煙を引いた曳光弾がこっちに殺到した。



 悲鳴があちこちで挙がる。

 私は足がすくんで、逃げなきゃとわかっていても座り込みそうになった。母親が私の手を取って森に私を引きずった。



 機銃弾が横殴りの雨のように降りかかり、土埃を激しく噴き上げた。既に撃たれた兵士の上にかぶさった土埃は、血と混じって泥となる。



 地獄絵図だった。



 私たちの逃げ込んだ森にも次々と銃弾は着弾し、撃ち落された葉や枝、そして木の粉がぴゅっぴゅっと落ちてくる。

 銃弾にえぐり取られた太い幹が私の隣にいたおばさんの上に落ちた。おばさんは悲鳴を上げてがくりと崩れた。頭がぱっくりとやられて太い幹の下敷きになった横顔に血がつーっと流れて落ちているのが見えて、私の頭の中の血液がずーんと冷えた。



 敵機は来たときと同じく爆音を残してあっという間に帰って行った。



 しかし札幌地区第八特設警備隊、そしてその指揮下にある国民義勇戦闘隊の三分の一が死んだり、重傷を負って動けなくなった。



「眞規子!」



 敦子が叫んでいる。敦子の隣を歩いていて逃げ遅れた元・同級生の相楽眞規子が破壊力のある大口径の銃弾に粉々に砕かれて殺されていた。

名前:

メール欄:

内容:


文字色

File: