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一日目
──────黒山さんちの玄関の前。
ghostさんは、朝からプレスティッジ・レコードを聞きながらずっとお代を待っている。
朝には既に夕御飯のカレーの出来を心配しながら、私はずっと、この昔の軍人のように無機質で冷徹な石畳の玄関前でひたすら待っている。
二日目
またしても待っている。私は待っている。待つことがまるでアイデンティティーの確立に影響するかのように真面目に、必死に。ど根性大根には勝てないだろうけど、立っている。
夜、寝ている間に雨が降ったらしく、服がビショビショだ。くしゃみをする。三半規管にちょっと響く。
三日目
お代を貰える希望はついに潰えた。だが私は何のためにここにいるのか目的を見失っていた。その中でのひとつの消失など、教室からチョークがひとつ消えたにも等しい。
だから私は何も言わない。まるでモアイ像のように神秘性と寡黙を兼ね備えて黙る姿。それが黒山さんちの玄関前で三日間を過ごしていた───