~Responsibility of evolution~ リレー小説

2◆kZDFwAt8do
2018-01-23 19:47:03
ID:N0nKsH4w

~オープニング~

都会町から外れた田舎。見渡す限り畑と田が広がり、春の訪れを喜ぶように草木は主張していた。人類の電脳機械化が進んだ時代に、全く似合わない風景である。
田と田に囲まれた丘に敷かれた線路には、旧式の電車がワンマン運転で緩やかに走る……筈だった。

時速90km/hで山あいを抜け、丘へ飛び出るように高速で走る二両編成の旧式電車。ワンマンカーだ。線路を削る轟音が轟く。
そう、今日の正午、敦賀方面に向かうワンマンカーが"ウィルス"に感染した機械人間によってジャックされたのだ。
機械人間は一人。人質は役17名。犯行の動機は不明。
それを知ったIDTはすぐに出動を開始。一人の超能力者を現地へ飛ばしたのだ。

駆動音を極限まで抑えた特殊ステルスヘリが電車が通過されるであろう通路の上空でホバリングしている。その真っ黒な航空機のハッチを開け、中から人が覗く。
彼の名は瀬名雫。TACネームはクロープ。今年で訓練を終了した超能力者だ。


「目標地点まであと2分。投下に備えよ」


ヘリパイロットが彼に通告する。それに応じて瀬名雫ことクロープは自身の装備を確認した。

側面にマウントレールを備えたヘルメットには赤外線カメラを装着し、その情報を投影する戦術マスクのバイザーカメラは青緑に光っていた。
オリーブドラブとタンで統一された装備品を目視で確認し、最後に右手に握る45口径の機関拳銃に注目する。グリップからはみ出た20連装マガジンに銃本体と同等の長さを持つサプレッサー。黒単色の大型拳銃だ。薬室に弾丸が装填されているのを確認し、安全装置を解除する。
最後にもう一度胸元に視線を向け、モールシステムが多用されたタクティカルベストの胸元に"ハックナイフ"が装備されているのを最終確認する。


「投下まで30秒」


ヘリパイロットが一秒ずつカウントを始めた。着々と数が減っていくのと同時に、緊張感も反比例して跳ね上がっていく。


「10秒前。9、8、7、6……」


数が0に近付いていく。マスクの下に隠れる額に一滴の汗が流れた。


「3、2、1。投下開始」


最後まで冷静に数えきるヘリパイロット。その言葉を聞いた瞬間、クロープは脊髄反射のようにヘリから飛び降りた。高度80m、着地目標は時速90km/hで走る二車両の旧式電車。
バイザーには着地地点までのマーカーが表示されている。クロープはそれに従って全身から放出する超能力エネルギーの慣性制御で自身を制御する。
空を完全に待っているこの感覚。落下速度が異常なまでに遅く感じる浮遊感。しかしそれも束の間、視界には旧式電車の屋根が飛び込んだ。

クロープは電車の屋根に着地する。とてつもない運動エネルギーを肉体に浴びる。吸収しきれないエネルギーを屋根を転がることで逃がす。
三回ほど転がり屋根を滑る。その勢いを保ちつつ、電車の最後尾のフロントガラスにハックナイフを突き立てて叩き割った。
頭から飛び込むように電車内へ侵入。ここまでの芸当はとてもじゃないか普通の人間が出来るモノじゃない。
最後部のドアを開け、先頭へ早足で向かうクロープ。視界の脇にはガムテープで拘束された老人達が転がっている。しかし今は人質の確保が最優先ではないのだ。
ロックされた連結部分のドアを無理矢理抉じ開け先頭車両へ突入しようとした刹那、ドアの向こうから全力疾走してくる真っ白の機械人間。
彼の目は真っ赤に血走っており、死に物狂いでこちらへやってくる。

それを確認したクロープはその場で発砲開始。分速600発で次々と強化45ACP弾がガラスを突き破って機械人間へ。
しかしまるで豆鉄砲を払うかのように手で凌ぎ、ドアを蹴り破ってクロープにナイフを振り下ろした。
刃渡り34cmの大型ナイフ。見た目からして戦闘用だ。それを左腕で直に受け止めるクロープ。

しかし刃を受けてもクロープの腕は傷付かない。切断されるどころか、まったく傷痕がついていないのだ。
それはそうだ、IDTが装着する"シールドスーツ"は全身を覆う超能力エネルギーによって全てのダメージを遮断する。弾丸も、刃も、爆風も全てだ。
刃を当たり前のように腕で受け止めたクロープに対し、疎む機械人間。しかし次の瞬間には彼の胸元を掴んで運転席の方へ真っ直ぐ投げ飛ばした。
背中を打ち付ける。ナイフを受け止めた衝撃と重なってシールドスーツの作動限界が近づいてきた。そう、一度蓄積した超能力エネルギーを越えるダメージを受けるとその完璧な防御力は次のエネルギー蓄積まで失ってしまうのだ。

マスクのバイザーに[攻撃を回避せよ]と警告文。このアラートに気を取られ焦ってはならない。
クロープは速やかに体制を戻し、その場でしゃがみ撃ちを開始。残り12発の強化45ACP弾を走り出した機械人間へ撃ち込む。しかし動きが止まる様子はない。
機械人間は再びナイフを振り上げてクロープへ組み掛かった。だが二度も同じ手は通用しない。クロープは振り下ろされた腕を流し、そのまま肘に固定する。ナイフを握っていた手を容赦なくもぎ取ってその場に投げ捨てる。
無力化された機械人間は諦めずにクロープへ格闘を持ち込むが、前のめりのまま突き出した拳をそのまま受け流され、見事な背負い投げを食らう。床に思い切り叩き付けられた機械人間。緊急作動した痛覚機能で痛みにもがく。
クロープは床で苦しむ機械人間の胸にストンピング。更に機械人間はもがいた。
素早くハックナイフを鞘から抜いたクロープは、完全に自由を奪われた機械人間の首に向かって容赦なく刃を突き刺す。機械音声の断末魔が電車内に響いた。

ハックナイフから機械人間へ直接エネルギーを送り込み、彼の身を侵していたウィルスを完全破壊。マスクのバイザーには[任務完了]と表示されていた。
しかしこれだけで任務は終わらない。クロープは骸となった機械人間を退かし、急いで運転席へ向かう。
運転士は既に動脈を切り裂かれ死亡していた。死体を席から離し、クロープは電車のブレーキを作動する。
線路と車輪からとてつもない轟音。数秒轟いた後、完全に停車。


「こちらクロープ。緊急停車成功、人質に被害無し」


クロープこと瀬名は通信を開始。


「こちらα-リーダー、了解。そちらに救出チームが到着するまでその場を確保しろ」


「了解、通信終了」


短い通信。
そのとき、瀬名は全身の力が抜けたようにその場へ座り込む。
無事に成功した。その言葉が頭に渦巻き、彼に安堵を与えたのだった。

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