~Responsibility of evolution~ リレー小説

3非花舞 オープニング1/3
2018-02-09 04:04:14
ID:hlU4ZI6s

日本ー某所
背中が汗で湿り始めるのを感じながら、日火秋穂は生垣の陰に身を潜めていた。
彼女を汗ばませるのは初春の暖かさだけではない。
防弾チョッキやシールドスーツに加え胸を包むハードバスト等の重装備がそうさせていた。

最後に音を聞いたのがいつだったかはもう覚えていない。
道路を挟んで反対側のテロリストのアジトを注意深く見る。
戦術マスクの暗視機能を通しても敵に気付かれた兆候や異常な点は何も見つからなかったようだ。
少なくとも外から見る限り。

『 こちらタチバナ、準備完了、標的確認できず。』

イヤホンに狙撃チームの報告入る。
テロリストの家と言われても前述の通り外から見る限りなんの異常もない住宅街の普通の家だ。
セメントの切妻屋根、地震大国日本向けの耐震性耐防火性に優れた窯業サイディングの壁、窓枠に至るまで日本中どこにでもある多くの家のと変わらない。
しかしこの何の変哲もない住宅に、狂った機械人間が確かに立てこもっているのだ。
カーテンは閉じて内部は確認できないがスナイパーの餌食にならないよう窓から離れているのだろう。

『ハマギク』

チームリーダー――ソーラ・レイが日火秋穂のTACネームを呼び、合図を出すと彼女は動き出した。
深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
するとグローブの指先に極小の染みが出現した。
染みは徐々に広がっていき、直系7センチに到達すると盛り上がり始めた。
丸い透明の頭が這い上がり、半球を形成する様子は日の出のよう。
完全な真球型に膨れ上がった時、それは指先から離れ、ふよふよと浮遊しだした。
垣根をバッグに浮遊するテニスボール大の球体に秋穂が小型カメラを取り付け、端末を開く。
秋穂が再び意識を集中すると、今まで風のゆくまま幽霊の如く漂っていただけの球体が今度は意思があるかのように動き出す。
垣根を越え、道路沿いを進み、夜の闇の中に消えていった。


細長いトンネルと、その下部を占める水流。
イヤホンに水の流れがこだまする。
カメラの暗視機能を通した映像が端末に映し出されていた。
球体は100m離れた所のマンホールから下水道に侵入し、こちら側に引き返す真っ最中だ。
ディスプレイの左上に表示された下水道の見取り図と映像を交互に睨む。
テロリストのアジトの真下に到達すると、間もなく球体は上昇し始める。
狭い下水管を汚物にまみれながら突き進んでいると、なにかに当たった。
押し上げるとなにかは開き、一畳分もない個室に出た。トイレだ。
ドアノブを押し開くと細長い空間が現れた。
間取りのデータを照らし合わせるとここは廊下で、右手に進むと先にあるのはリビングだ。
データによると広さは12畳。廊下から真っ直ぐ突き進んだ位置に二階への階段がある。
神経を張り詰めてリビングに入ると複数の人影が確認できた。
数は2。白い装甲がテーブルのランプに照らされている。機械人間だ。
部屋の光源はランプのみで球体は透明、視認によって気付かれる可能性は低い。
しかし壁や壁に擦れて音を立てようものなら一瞬で終わりだ。
そうなれば奴らはさっそく重要なデータを始末して集団自殺の準備を始めるだろう。
針に糸を通す思いで一層神経を張り詰め、床を這うようにリビングを通過し二階に上った。

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