鬼のお兄ちゃん(略して鬼いちゃん)は、ロリコンなので僕に優しい。
今日も朝から、任務中の僕にこっそりとカップのアイスクリームを差し入れてくれた。
うむ苦しゅうない。
ひょっとすると、僕が童女姿の怪異だから優しいのではなく、死体の怪異だから優しいのかもしれない。
死体の癖にアイスクリームなんて食べるのかと訊かれると、その答はイエスとノーの、両方だった。
なにも冷凍保存的な意味合いで、死体の本能が冷凍食品を欲しているというわけではない―
今年の夏は大した暑さで、鬼のお兄ちゃんはそれを心配して、ひっきりなしにアイスクリームを差し入れてくれていると言うのもあるんだけれど、あいつ、何かを勘違いしてやがる。
僕の必殺技『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』は、ピノッキオの鼻が伸びるのと、多少似てなくもないけれど。
どんな恵まれた人生を送ろうとも―
大金持ちの子供に生まれようとも、才気溢れる頭脳や肉体を持っていたとしても、それでも人間がみな等しくは何らかの不満や不安を抱えながらぐちぐち生きるのは、単に欲深いからじゃあなくって、そういう不満や不安がないと、生きてる実感がないからなのかもしれない。
だから―生き甲斐を求める。
人生に適度な難度を求める。
なーんてもっともらしく語ったところで、とっくに死んでいる身としちゃあ、まったく理解できない感情なんだけどね。
生き甲斐とか生き様とか言われても、難解な本でも読んでる気分だ。
言葉だけなぞっても、ぜんぜん心に入ってこない。心ねーし。
・・・・・・阿良々木月火はどうなんだろう?
葉っぱ天国で規制されたのだけれど、僕、何かしたのかな。
調べてみたら巻き込みの可能性があるらしいよ。
ちゃんと仕事をなさない管理人に、一瞬、殺意を注ぎたくなったけれど、僕は我慢する。
むろん、この状況を打破するだけなら簡単だ。それこそ、『例外のほうが多い規則』を、管理人の脳内にぶち込んで逃げればいい。
僕にはそれができる。それができるから、僕はここにいる。