ある丘の上で、お爺さんはおむすびを食べるために座りこんでいました。
「美味しい美味しいおむすびや、ようやく食べることができるのぉ」
しかし、お爺さんの老弱な握力の無い手で捕まれたおむすびは、ころりころりと丘の上を転がり落ちていってしまいました。
「おむすびや、待っておくれー」
お爺さんはおむすびをおいかけています。
せっせせっせと走り、よくやく追い付いたおむすびに手を伸ばすと……
「あ」
底の見えない、お爺さんの身長ぐらいの穴がありました。
視界を闇に遮られたお爺さんを襲ったのは言い様の無い浮遊感。
お爺さんは気がつきました。
自分は今、落ちていているのだと。
ころりんころりん。
その時お爺さんの耳に届いたのは、おむすびが転がる音でした。