ある丘の上で、お爺さんはおむすびを食べるために座りこんでいました。
「美味しい美味しいおむすびや、ようやく食べることができるのぉ」
しかし、お爺さんの老弱な握力の無い手で捕まれたおむすびは、ころりころりと丘の上を転がり落ちていってしまいました。
「おむすびや、待っておくれー」
お爺さんはおむすびをおいかけています。
せっせせっせと走り、よくやく追い付いたおむすびに手を伸ばすと……
「あ」
底の見えない、お爺さんの身長ぐらいの穴がありました。
視界を闇に遮られたお爺さんを襲ったのは言い様の無い浮遊感。
お爺さんは気がつきました。
自分は今、落ちていているのだと。
ころりんころりん。
その時お爺さんの耳に届いたのは、おむすびが転がる音でした。
「…あ、」
桃太郎は声をもらした。
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今から何年も昔のことだ。
自分は捨て子だったらしい。川辺の近くで布にくるまって、そこに置いてあった。そしてそこに、自分の頭と同じくらいの大きさの桃が、すぐ横に落ちていたそうだ。
犬と猿とキジは鬼との戦いで死んでしまった。あとは自分しか残されていない。
鬼ヶ島というからどれだけ禍々しいのかと思えば、拍子抜けするほど普通の家だ。強いていえば、あちこちから血の臭いが…漂ってくるだけ。
少しづつ、おかしくなってく気がした。あるいは、
もうここには誰1人いない。
ひときわ目立つ扉を開けると、大量の財宝がそこにあった。
財宝を持ち帰る前に、せめてここまで着いてきてくれた仲間達を弔ってやりたいと思い、桃太郎は引き返すことにした。
「え、」
振り返ると、
そこには大量の人間が転がっていた。
全員、血を流して倒れている。
どうしてこんなところに。
人間は自分以外には居ないはずだと思った。
「…あ、」
それは本当に人間だったか?
いや違う。
自分が鬼だと思って殺したものは何だったか?
「…ああ、」
自分の両手を見ると、真っ赤な血で濡れていた。
「ああああああぁああああああぁぁ!!!」
アレが鬼だ。
お前はアレを殺せ。
アレは人間じゃない。
アレが鬼だ。
何度も何度もそう教えられて、そのうち自分の姿も分からなくなって。
人間が鬼だとそう思って、自分は、人間を、
桃太郎は我武者羅に刀に手を伸ばしてそれを腹に突き立てた。
浦島太郎
昔々、釣りが大好きな若者がいた。その若者の名は浦島太郎と言った。
ある日、釣りに出掛けると、亀がガキ達にいじめられていた。
「その亀を私に売ってくれないか」
そして亀を助けた。
「ありがとうございますお礼は必ずします」
そんな気が何故か伝わってきた。亀は帰っていった。
ある日、また釣りに出掛けるとあのときの亀がいた。
「あのときはありがとうございます。
お礼に竜宮城に連れていってあげます」
竜宮城、それは聞いたことがなかった。それはそうだ、地図上には存在しないからだ。
浦島太郎が考えていると亀が浦島太郎を自分の甲羅にむりやり乗せ、
「掴まってくださいね」
そう言ってもぐった。
何故か手が離せない。
そのあとは息が止まり窒息し、更には水圧で少しずつ体がボロボロになっていった。
その死肉は魚のエサになるだろう。
「着きましたよ」
そんな頃には浦島太郎は影も形もなかった。
じゃあ『桃太郎』で
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昔々、あるところに、お爺さんとお婆さんが表向きには仲良く暮らしていたものの、ある日を境にお爺さんはパッタリ見かけなくなり、何故かお婆さんの羽ぶりはよくなって、変な臭いもし始めました。