いちいちマジで解説するのもなんだけど、「矛盾」という言葉は韓非子が儒家を批判したり法家としての思想を説くために作ったもので、矛と盾のお話もその目的で作ったフィクションだからね。
実際の出来事じゃないよ。
あと、楚が選ばれた理由は、その当時の中国では南方のほうに良い鉄の産地があったり、製鉄技術が進んでいたりして、武器の品質が高かったからだ。話はムジュンしていても元々楚の武器は高性能だったんだよ。
加えて、この話を作った韓非子は韓の王族という最高の家柄。楚というのは昔から野蛮なイメージで、中原諸国からは恐れられつつ蔑まれる部分もあった。「戦の強い野蛮人」というのが楚のイメージだったんだよ。だから悪質な武器商人として登場させるのに楚の人間は最適だったわけ。
楚の商人が意図的な詐欺だったのか、単に馬鹿だったのかは、話を作った韓非子に聞かなければ分からない。
しかしどちらかというと、愚か者とされるのは「杞憂」の杞とか「宋襄の仁」の宋のように過去に滅亡した天下統一政権の子孫であって、楚は「鼎の軽重を問う」たり、周政権を無視して最初に王号を名乗るような、意図的な悪のイメージのほうが強かった。そういう背景を考慮すれば、この商人は馬鹿ではなく詐欺という設定の可能性が高い。また、楚の武器という時点で粗悪品のイメージはなくブランド物であることから、詐欺(誇大宣伝)ではあってもそこそこちゃんとした物が想定されていたと考えるのが妥当だろう。