平成喧嘩塾の衆人はどこいったん?

112、《短小tinko》
2019-01-12 19:04:32
ID:89AUxsM.(sage)

第四章 人を奴隷にすること

 

1. 誰も生まれながらにして他人に対する権力をもっているわけではないし(第二章)、力だけでは何の正義ももたらさないからには(第三章)、人間界のあらゆる正当な権力は、契約に基づくべきであるということになります。

2. グロティウスは言っています。「個々の人間が自分の自由を譲り渡して人の奴隷になることができるのであれば、国民の全員が自分の自由を譲り渡して王の家来になれない道理はない」と。この発言の中には、説明を要するあいまいな表現がいくつも含まれています。今はその中の「譲り渡す」という言葉にしぼって議論を進めて行きましょう。「譲り渡す」というのはただでやってしまうか、売り渡してしまうかのいずれかです。ところで、他人の奴隷になるということは自分をただでやってしまうことではなくて、少なくとも食べさせてもらうことと引き換えに自分を売り渡すことなのです。では一体国民は何と引き換えに自分を売り渡すというのでしょうか。王は国民を食べさせてやるどころか、ひたすら国民に食べさせてもらっている身です。しかもラブレーの話では、王という連中は、とうてい少しの食べ物では足りないという話です。では、国民が自分の身を王に渡すには、自分の財産もいっしょに王に渡さなければならないのでしょうか。もしそんなことになったら、国民の手元にはいったい何が残るというのでしょうか。

3. 「専制君主なら国民に平和な暮らしを保証してくださる」と言う人がいるでしょう。よろしい。ではもしその君主がもっばら自分の野心から戦争を引き起こしたら、もし君主が果てしなく貪欲で政府の役人を使って過酷な取り立てをやったら、そしてそのおかげで、国内が乱れていた時よりも国民の生活が荒廃してしまったら、国民にとって平和な暮らしがどんな得になるでしょうか。国内の平和と引き換えに国民が苦しまなければならないとしたら、一体国民はどんな得をしたことになるでしょうか。地下牢の中にも平和はあります、だからといって地下牢に入りたいという人がいるでしょうか。かつて怪物キュクロプスの洞窟に閉じ込められたギリシャ人は、その中で怪物に取って食われる番を待ちながらもその間を平和に暮らしていたのです。

4. では、「譲り渡す」というのは自分をただでやってしまうことなのでしょうか。しかしそれではあまりに無茶苦茶な話であります。そんな行為は、それが正気な人間のすることではないという点だけから言っても、不正で無効な行為です。一国の国民全体がこぞってそんなことをするなどというのは、国民全員が狂っていると言うに等しいことです。そして、もちろん狂気に基づいた正義などというものはありえません。

5. いま仮に百歩譲って個々の人間が自分を譲り渡すということがありうるとしても、自分の子供までも譲り渡すことは許されません。なぜなら、子供たちは人間として生まれた以上は、生まれながらの自由を持っているからです。自由は彼らのものであり、誰も勝手に彼らの自由を処分できないのです。子供が分別のつく年齢になるまでは、子供を守り幸福に育てるために、子供に代わって親が子供の持っている自由を制限することは許されていますが、親が子供の自由を無条件かつ永久に人にやってしまうことは許されないことなのです。それは自然の道理に反する行為であり、親権の乱用です。ですから、独裁的な政権が正当性を獲得するためには、世代が代わるごとに、各世代にその政権を信任するかどうかの選択権が与えられなければならないでしょう。しかしその時には、もはやその政権は独裁的とは言えなくなってしまいます。

6. 人間が自分の自由を放棄するということは、人間性を放棄するということなのです。それは、人間の権利も、さらには義務までも放棄してしまうことです。全てを放棄してしまえば、もはやどんな見返りの可能性もなくなってしまいます。そのように全てを放棄するということは、人間の本質に反する行為です。そして、意志の自由を失うということは、もはや自分の行動に対して善悪の判断がつかなくなってしまうことです。つまり、一方の当事者に完全な支配を認め、もう一方の当事者には完全な服従を要求するような契約は、でたらめな契約であって無効なのです。相手に全てを要求する権利がある人間はその相手に対して何の義務も負わないことは誰の目にも明らかでしょう。相互の利益がなく相互の義務もないというこの条件一つをとってみても、この契約が無効なのは明らかではないでしょうか。というのは、そんな契約のもとにある奴隷には主人に対抗するどんな権利もないからです。なぜなら、奴隷のものは全て主人のものだからです。さらにいえば、奴隷が主人に対抗する権利も主人の所有物なのですから、奴隷の権利とは、主人が自分自身に対抗する権利ということになってしまい、全くナンセンスだからです。

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