「白狼騎士団のアートライト姉妹あたりも、美人な上に才媛と有名ですけどねー。貴族の娘ですし」
「オレにその気が湧けば、いずれ会ってやってもいい。だが、その前に王の器を見せつけねーとな……オレはどう見ても、口だけで結果の伴わないザコとは違う」
髪を後ろへ撫でつける桐原。
「召喚された勇者の中でもオレのレベルについてこられているやつはいない。オレのレベルは今279……次点の聖にすら50以上の差をつけている。わかるか? 伸びが鈍くなってるにもかかわらず、50差……これは、S級の中にも序列が存在することを証明している。要するに――」
桐原は右手を手綱から離すと、前方へ突き出した。
まるで、何かを誇示するように。
「誰・一・人・と・し・て・、こ・の・キ・リ・ハ・ラ・を・越・え・ら・れ・る・や・つ・は・い・な・い・と・い・う・こ・と・だ・」
と、小山田が馬車から半身で乗り出した。
話を聞いていたようだ。
「つーか大魔帝とか拓斗一人でぶっ殺せんじゃね!? つーかつーか、見せかけ株価ストップ安とか、S級詐欺イインチョとか、頭おかしい系双子姉妹とか、この異世界勇者ストーリーに必要でしたかーっ!? そこんとこ! 女神さまに! 聞いてみたい! 聞いてみたい! 聞いてみたい!」
手綱を握り直し、桐原が振り向く。
「あいつらが身のほどを自覚するのも一つの成長物語だろ、翔吾……それに、オレ以外のザコがいねーとオレとの差が伝わんねーからな……だからクラス”全員”の召喚は必要だった。元の世界に戻ったらクラス内の序列も決定的になる。もう、好きにはさせねー……」
「ぶっちゃけ高雄ズとか浅葱とかうざかったかんなー! いるだけでクラスのバランスが崩れるってかさー! 正直、ああいう半端に序列高い空気出してる連中も困るわー! 放置してると死んだ三森ちゃんみたいなクソザコ勘違いモブも生まれるしよー! 生態系、崩れるわー!」
と、
「三森のブザマすぎる死にざまは、最序盤で死ぬ典型的なモブそのものだった……あれがモブの役割であり、末路よな……」
今まで黙っていた安が、歪んだ笑みを浮かべて言った。
「三森は偽物で、僕こそが本物だった。つまりお互い本来あるべき姿に着地しただけ……僕の本質は主人公で、三森の本質はモブだったのだ」
「あ゛ー!? なんだまーた調子こいてんのか安てめぇ!? マジお寒い方向性にキャラ変わりすぎだろ!」
「これが本物を持つ者への嫉妬、か……心地よいなぁ。まあ、小山田にはせいぜい噛ませキャラの桐原の腰巾着がお似合いだ。馬にも乗れんしな」
「ぶっ殺す!」
「くはは。四恭聖の長女にいつもやり込められている分際でよく吠える……くははは! 無様すぎる! 無様無様!」
「…………あー、マジ殺すわ」
「安に絡むのはやめとけって言ってるだろ、翔吾」
桐原が制止する。
「けど拓斗よぉー? そろそろ、マジで身の程わからせねーと。ネットもSNSもねぇからブザマ動画晒しもできねーし」
「小物が突然身の丈以上の力を手に入れるとああなっちまうんだよ……成金が破滅しやすいのと同じだ。だが、所詮はピエロ……長続きしねーよ、あんなのは。だからそのうち、安は朽ちる……」
「……ふん、だとよー? わかったかな、見せかけ株価クン?」
「くはは、ついに桐原まで吠え始めたか。くくく……よほど、この黒炎の勇者が恐ろしいと見える……心地よい、心地よい……」
「つくづく救えねぇな、安智弘……」
そんな光景を眺めている女神は、両手を合わせて微笑んでいた。
「皆さん、上昇志向が強くて素晴らしいですねー」