「はあ…」
「おーい歩、ため息なんかついてどうした?」
「…はあ…」
「人の顔見てため息つくなよ、失礼だろー」
田中が口元を尖らせる。お前がやっても全然可愛くない、と言おうとしたが、その代わりにため息を吐いた。さっきからため息しかついていない。
せっかくの修学旅行なのに、全く楽しめていない。再度、ため息をつく。幸せがダダ漏れだ。
「お?俺あっちの方いくわ!」
「あっ…おい田中、」
自由なやつだ。
俺も田中を追いかけようとした、その時だった。
どぅん、と。
空気が大きく揺れる。
「_______!!!!」
とてつもなく高い音が、空気をビリビリと震わせる。頭が割れそうだ。
続いて巨大な影。トカゲのような禍々しい色の巨大生物が、コンクリートを割り、暴れていた。尻尾の炎が、赤く輝いていた。
「なっ…あっちには田中が!!オリヴィエに…っ、」
スマホを取り出そうとして、止めた。今あいつに頼って何になる。
あいつはただの嘘吐きじゃないか。適当な時に適当な言葉を言って、肝心な時には何も告げずにどこかへ消える。
「っ…」
それでも、友達は放っておけない。歩はその巨大トカゲの方へ走り出した。
「あれは…サラマンダー?」
周囲の人間が逃げる中で、オリヴィエはその影を見つめていた。オリヴィエの知る中では、サラマンダーは知能が高く、ああいった風には暴れない筈だ。まるで、何かに悶え苦しんでいるかのような__
ついでに、あんなに大きくない。
「…っち、」
舌打ちをひとつ打って、オリヴィエは走り出した。歩がいない以上、自分だけで何とかするしかない。
「うわっ…!?何だ、目の前でコンクリが」
「田中ぁ!!こっちだ、逃げろ!!」
「お、おい歩!!これ何なんだよ!」
田中にはあの化物が見えていない。
「歩!!」
「オリヴィエ、」
「…、いいか歩!サラマンダーは目が…」
言いかけた途端、歩とオリヴィエの間に尻尾が落ちる。オリヴィエは苦々しい顔で金色のレイピアを構えた。
「こっちだ、サラマンダー!」
オリヴィエがそう叫んだ途端、サラマンダーの爪が、オリヴィエに襲いかかる。
オリヴィエはそれを辛うじて避けたが、左腕に掠った。赤色の血が流れる。
「オリヴィエ!!」
「っ!!歩っ、」
歩の声の方向に、サラマンダーの爪が襲いかかった。オリヴィエは尻尾を飛び越えると、歩の方へ走る。
駄目だ、間に合わない。
ぴた、とサラマンダーの動きが止まる。
サラマンダーはまるで何かに抗うかのように、体を動かし始めた。
「____!!____!!!!」
歩は、オリヴィエの方を見た。左腕から滴る、オリヴィエの血。
もしかして、もしかしなくても、オリヴィエがピンチだ。田中は友人で、親友だ。それと同じように、オリヴィエだって友達だ。十数年生きたた中でできた、数少ない友達。
「オリヴィエ!!オリヴィエ・ド・ニナータ!契約に従え!!」
「!!…了解した!」
オリヴィエが、歩に手を触れる。黒色の炎が歩の足元から吹き出して、渦を巻く。歩の髪は灰色に、片目の色は蒼色に。
『歩』
「ああ、分かってる」
歩の両手から炎が吹き出して、それが剣に形作られる。歩の両手に、身の丈ほどもある大剣が握られた。歩はそれを構える。
サラマンダーが、歩の方を向いた。
「__いくぞ!!」
歩が大剣を振り下ろす。
サラマンダーが咆哮をあげた。