~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

12ハーシー&ルミナ
2016-11-19 23:57:27
ID:cwhX6hiE

__進撃前夜、某所の酒場にて。

『ではお客さん、御注文は?』
「熱い赤ワインを一杯だ、デカンタも一緒にな。」
『ほう、随分とお酒に自信がおありのようで。銘柄はこちらで勝手に決めましょう。暫しお待ちを。』

 夜闇で閉された街角に、ぽつと一つの光が宿る。“The morning star”の看板とOPENの小板が目印の酒場は、旅に疲れた冒険者で賑わうのが常である穴場である。だが、今夜は珍しく来客は少なかった。居るのはただ、小洒落た服に身を包んだ酒場の主に、ボロを纏った似付かわしくない男のみである。
 
『ほら、御注文通りのホットワインですよ。本日は夏の国から取り寄せました、ラルク__』
「ああ、悪いが銘柄の話なら興味ない。てか、アンタ知ってるだろ? 俺が銘柄気にしてられるほど経済状況よろしくないって?」
『フフ、これは失礼。』

 奥に引っ込んでいた酒場の主が、ボロ布男が肘を付くカウンターに、ぶどう酒で満たされた器をコトリと置いた。カウンター越しの応対は二人の間柄を示すには十分であろう。
 
 「しかし、まぁ……なあ? あんたの店も御立派になったもんだ。天井にも粋な装飾付きときてる。」
 ワインを口に流し入れ、男は溜息混じりに呟く。なるほど天井からは爛々と煌めくガラスの置物__魔術灯と呼ぶらしい__があちこちぶら下がり、店内を黄色の光で満たしている。アンティークな時計も12を指してカチコチ鳴っているらしかった。
 ボロ布はデカンタを手にし、温くなり始めた中身をグラスに注ぎ足す。続いて男は言葉を紡いだ。
「それに引き換え……どうだい?俺はこんなナリ。魔王ぶっ潰して大儲け、おんなじ目的で戦った同志なのによ?最後まで“生 き 残 ら な か っ た”お陰でビタ一文支払われねぇんだぜ、まったく……」

 先程のよりも数段深い溜息が、がらんとした店内に木霊する。と、グラスを磨いていた主の手が、ピタリと止まった。貼り付けたような微笑みを浮かべて、彼はゆったりと語り出す。
『おや、その件につきましては……何と言いましょう、御愁傷様でした。貴方に護られなければ、今頃は私も野垂れ死んでいたでしょう。心より御礼申し上げます。』

 グラスを逆さに置いた後、静かにお辞儀をする主。暫しの沈黙が流れる__
『といっても、実物主義の貴方の事だ、私の言葉などでは満足なさらないでしょう。では、どうです。貴方にはこんなものをお贈りしましょう』

(続きます)

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