~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

2J◆kZDFwAt8do
2016-11-19 23:44:55
ID:cwhX6hiE

草木枯れ、不毛の山岳にバイクを止め、孤独に佇む男が一人。輸送用の大型バイクに跨がり、病院の住所が綴られた一枚の紙切れを見詰めていた。
その寂しい背中に小さく吹いた冷たい風、彼はバイクのギアを入れて再び走り出した。

魔王の討伐以来、様々な技術が高度になった。緊迫した状況から脱した世界は、開発競争に追われ、今まで首輪を着けていた獰猛な犬を離してやったかのように技術を発展していった。
今までは馬車が通るか、たまに軍用バイクが走るくらいの道路が、一般普及したバイクのお陰で正確に交通機関が整備され、一番の技術力を持った夏の国は、その成長が目に見える様に自分の国を発展していった。

かつて、様々な人種差別や軍の犯罪の隠蔽に溢れた秋の国は、少しずつではあるものの健全化に向かい、既に確立された人種差別は無くなっていた。
そんな中、真っ黒な大型バイクを走らせる男がいた。彼の名はJ。本名はジェーナ・マース。かつてこの地で任務を行っていた元傭兵。
今では金と殺人にまみれた汚れ仕事から足を洗って、今は個人でバイク便を経営している。
薄手の黒いロングジャケットを靡かせながら、その足はとある病院まで向かっていた。

やがてバイクを止めた彼は、病院の待合室へ足を運ばせた。休日の待合室。決して人が少ない訳ではない。そんな中、一人椅子の橋に座るフィリアオーガ族の少女がいた。
真っ白。そう例えた方が良い華奢な彼女の元へ、Jは立ち止まった。

「君がスリア・コリシュマルド。」

真っ白な彼女と対照的な黒い服に身を包んだ彼は、その少女に向かって話しかけた。
名前を呼ばれた少女は、その大きな目を動かしてJを見上げた。

「あっ、あっ!…はい。」

どもった返事。

「連絡は届いている筈だ。」

その返事に、いつもの冷たい口調で返すJ。

「はい。これから宜しくお願いします。」

小さく頭を下げる彼女。Jはついてこいと一言返し、彼女と共に駐車していたバイクへ向かった。
バイクの後部についた箱からヘルメットを取り出し、彼女に被らせる。ゆっくりと彼の後ろに跨がり、そのジャケットの裾を思い切り掴んだ。



数時間は走っただろうか。どの四季の国からも少し外れた一軒家の前に駐車する。

「歩けるか。」

と、J。

「大丈夫です、バイクって、凄く楽しいですね。」

ヘルメットのバイザーの奥から分かる彼女の笑顔。その笑顔を、既に故人となった、Jの記憶に焼き付けられた二人の笑顔と照らし合わせてしまう。
そんな記憶を思いだした彼は、目の奥に移った光景を振り払うように無言で自宅の鍵を開けた。
少女は彼の背中を追うも、無造作に手紙の入ったポストの前で止まる。

「手紙、入ってますよ。」

Jは彼女の言葉に応じて、自分のポストからその手紙を取り出した。
手紙というより真っ赤な封筒のそれは、黒字でこう綴られていた。 


[元魔王討伐隊へ]

と。

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