~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

24ハーシー&ルミナ
2016-11-20 00:21:20
ID:dA4kL4oo

ー某所 酒場ー

__さて、何時間ほど過ぎただろうか。既に淡緑のボトルは数本開いていた。それでも、酒場の主とボロのお客は全く酔った素振りも見せていない。
 
 『ふむ……そろそろ頃合いでしょうか。恐らく、既に“役者”が揃い始めているかと。私の方では旅の準備は整っております。』

 主は徐に時計を見上げた後、徐に呟いた。頭をもたげた男の眼に映る、カウンター奥の倉庫の様が。ダガー数十本に埃被った杖らしきもの、いわゆるペストマスクの2つの窓が此方に睨みを利かせている。男は如何にも満足だと言いたげな表情で口角を吊り上げた。

「趣味の良し悪しは別として……上出来だ。俺もとうに準備は出来てる。そもそも持つもんもまともに無いしな。じゃ、おめかし済んだらさっさと行こうぜ?」
『御意。』

 言葉が終わるが早いか、主は指を高らかに鳴らす。次の瞬間には【先程まで倉庫で燻っていた】ペストマスクと黒塗りの杖がカウンターへと並んでいた。さも当然という風に主はそれらを手に取ると、あっという間にマスクと燕尾服を着けた紳士に早変わりしてしまう。仕上げにシルクハットで髪を覆えば、戸を押し開けて席の男の元まで歩き進む。マスク特有のくぐもった声が語り掛けた。

『では参りましょう。行き先ですが、ええと……夏の国は、都の戦場跡地になります。貴方は目にされたことが無いでしょうがね。』
「おまえはいつも一言余計な……おい待て、杖を持ち上げるなって。確かに目にしたことはないけどな? あんたはあんたで、あん時以来になるだろ?」
『実は私も魔王討伐の顛末は訳あって見ておりませんので、お互い様ですよ。どんなことになっているやら……確認も兼ねて、出発しましょう。』

 主の杖が持ち上げられ、先端が男の肩に触れる__刹那の後、放たれた閃光の中へと二人の姿は掻き消えた。店の時計は尚も時を刻み続ける。店の扉に残された、CLOSEの小板を残して。

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 果たして主の予見は当たっていた。二人の冒険者が出現した地点、つまりは戦場跡地には、既に二人の__否、三人と言うべきか__が辿り着いていた。無事集合場所にも到着し、予想通りに他の元討伐隊も集っている。主にとっての誤算があるとすれば__出現位置を盛大に間違えたことだろう。
 主はマスクの奥で表情を歪めていた。本来ならもう少し離れた地点に現れて、自然体で歩いて合流するつもりだった。だがどうだ、この出現位置は? 丁度“大剣使いの傭兵と魔法使いらしき少女の中間”にあたる位置。仮に二人の視界に入っていたなら【虚空】から突然出現してしまったように見えてしまった筈だ。のっけからやらかしてしまった……

 だが、やってしまったものはしょうがない。とりあえず挨拶は済ませておこう……一先ず主、改めペストマスクの老紳士は、フェンスに向けて歩き出す大剣使いの方へ声をかけることにした。

『こんにちは、旅のお方。フェンスに囲まれたこの区域に、何のご用事がおありかな? ……おっと失礼、申し遅れました。私、“元・魔王討伐隊情報伝達員”のルミナ・ウィリアムズと申します。』

 帽子を取り、深い一礼を済ませてから被り直す。聞くまでも無かったが、彼もまた討伐隊として召集に応じたのだろう。所詮は情報伝達担当の自分、覚えていてくれれば話は早いのだが……期待はしないでおこう。

「へー、こんな風になってんだな……。でも、なんでまたフェンスなんてあるんだか。思ったよりも埃っぽいし。」

 ……彼のことは、暫し捨て置こう。随分とお気楽な様子で辺りを見回していらっしゃる。フェンスというのはあれだろう、戦地の復旧作業の為では無いだろうか? それにしては少々物々しい気もしないではないが、今の重要課題はそこではないだろう。

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