「何の手紙ですか。」
スリアは、横から覗くように俺が手に持っている手紙を見た。
真っ赤な封筒に、簡潔に宛先の綴られた手紙。嫌な予感がする面倒な気がする。様々な負の感情が俺の心を打ち付けていた。
後で中身を見よう。今は彼女を家に入れて落ち着かせるのが一番だ。
「ただの連絡簿だ。さぁ、早く中に入りなさい。」
俺は彼女に言った。すると彼女は少し頬を膨らませ、何か不満気な表情で返してきた。
「その言い方、何だかおじさんっぽいです。」
「おじさん?」
「うん。」
軽くショックだ。
「そういえば何歳だ。」
「17です。」
「そうか、俺と3つしか変わらない。」
そう返すと、目を丸くして彼女は驚いた顔になる。
「なんだその顔は」
「いや、何でもないです。家、入りますね。」
彼女は短い髪を揺らして、玄関を抜けた。
その後、彼女に菓子とお茶をもてなした。今はソファーに座ってゆっくりとお茶を飲んでいる。
俺はその間に電話の履歴を確認し、休日出勤はしなくて良いと安心した。そして机に置いたポストに入っていた手紙を手に取った。
[元討伐隊へ]
本当に、非常に簡潔だ。
糊をゆっくりと外し、封筒の中身を取り出す。その用紙には綺麗な字で、高級そうなインクで短く文章が綴られていた。
『元討伐隊へ、唐突にこの手紙を貴方達へ送ったのは、魔王に関しての情報を知らせる為である。
先日、我が国の諜報隊員が不審な動きをする機関を確認したらしく、その機関の経歴を探ったところ、どうやら魔王を崇拝する危険なカルト集団だった。
そんな彼等が目に見える程大きな動きをしているのは、あまり良い事ではないのは確かだろう。
そこで、貴方達へこの手紙を送ったのだ。かつて魔王を討ち倒した貴方達へ。
詳細な連絡は夏の国で行う。明日の13時までに集合してほしい。』
―夏の国より―
内容を読み終え、丁寧に封筒の中に戻した。
どうも胡散臭い。本当に国家関係者からの手紙なのだろうか。本来ならこういう手紙は暗号にする筈だ。
不気味だ。
そう考え込み、俺が頭を抱えて座り込んでいると、スリアが寄り添ってきてくれた。
俺の肩にそっと手を置いて、その大きな綺麗な目で俺の顔を覗いてきた。
「大丈夫、ですか?」
華奢な声。
俺はその言葉に、頭を抱えている手を机の上に置きなから返事をした。
「大丈夫だ。気にしないでくれ。」
「気にします。」
また怒ったような顔をするスリア。
「本当に、大丈夫なんですか?頭、痛いの?」
「過保護だな、平気だ。」
俺は肩に置かれた彼女の細い手を、優しく退かす。
そして椅子から離れ、食材が保管してある方へ向かう。スリアも後を追ってついてきた。
「昼飯にしよう、何が食べたい……とはいっても、あまり上手いものは作れないけどな。」
その言葉に、彼女は首を振って答えた。
「ううん、病院食よりはずっと美味しいと思います。」
「確かに病院食よりかは味は付いてるさ……。」
俺はハムと、今朝作っておいた薄いスープを温め始める。
今日は、とりあえずゆっくりとしよう。