俺は目の前に広がる惨状を眺めていた。電撃を帯びていてるかのような痛い空気に、フェンスの奥から漂ってくる異様な臭いを感じながら。右手に握る複合剣が怯える。しかしその怯えは、自分の手からの振動であった。
天気が非常に悪くなっている気がする。今にも雷雨が降り注ぎそうだ。きっとこのフェンスの奥から湧き出る邪気がそうさせているのだろう。
俺は一度止めていた足を再び動かし、フェンスの方へ近付いていく。張り巡らされた有刺鉄線には目に見える程の高圧な電流が流れれているみたいで、触れたら怪我どころでは済まないのは確かだ。
そんな中、唯一有刺鉄線が張られていない入り口の方へ歩み寄っていく。
この先か。そう思って扉に手を触れた。そのとき、隣から突然男の声が聞こえてくる。
「へー、こんな風になってんだな…」
その声主の男は、目の前のフェンスを物珍しそうに眺めていた。だが、それよりも目を引いたのは行動ではなく格好だ。まるでボロ雑巾を繋ぎ合わせたような安価な服。繋ぎ目の隙間からは銀色の何かが見え隠れしている。
「でも、なんでフェンスなんてあるんだか…」
男がそのまま言葉を続けながら俺の方を睨んだ。そのグレーの気色のない瞳で。
「なんだ、やっと気付いたのか。」
そのボロ布男は俺の方を振り向いた。やはりその服装は異常だ。
「俺のこと、覚えているか?」
彼は自分の指で自らの頭を指差すようなしぐさをした。
「残念ながら。」
俺は淡白に、冷静に答えた。