~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

51さあ、開幕の号令を◆X5668N6XH6
2016-11-23 22:15:19
ID:2EfCyrmg

 さて、ボロ布男ことハーシーの方だが……彼は生憎、“死神”が操るような類の奇術は持ち合わせていない。即ち、生身一つでの正面突破になる。薄々勘付いていた彼は、“服の内から”一振りの刃を躊躇うこともなく引き抜くと、フェンスを越えたすぐ先の地面目掛け、渾身の力を込めて突き刺した。
薄く柔軟な刃はよくしなる、勢いそのままに棒高跳びの要領で飛躍したボロ布は、先陣を切った少女達を飛び越え敵地の真っ只中に転がり落ちた。

「……っテテっと。あー、脚の筋肉強化してたんだけどなぁ……流石にどっかの誰かみてぇにはいかねーか。“英雄気取りさん”よ、アンタはやっぱスゲー野郎みたいだ!」

 皮肉交じりの本心を、“わざとJに聞こえるように”呟くハーシー。そんなヤツ、魔物からすれば格好の獲物に他ならない。先ずは自分がと躍り出る骸骨騎士的な何か。が、振り上げられた剣が脳天をかち割る前に、先程とは異なる刃の一閃が胴体を寸断してしまう。
 続くは“邪視 イービルアイ”。魔力を扱う巨大な目玉が、数本の触手じみた何かを垂らした姿で浮遊している……。空高く浮き上がった“邪視”は、ハーシーに狙いを定め魔力を解き放つ。直線的な朱色のレーザー弾は、彼を捉えきるには少々単純過ぎる__だが、回避する度に着弾地点で小規模な爆炎と化していく。執拗な攻撃に終わる気配は見られない、他の魔物も連動して動き出す……。
 とうとう痺れを切らした彼は、一切の回避を棄てて魔弾を左腕に受けた。爆炎が瞬く間に左腕を焼き尽くし、ただの焼け焦げた肉塊に変えてしまう。

「ウグッ……痛ってェなテメェ!!!!」

 だが……“左腕を喪った割には”随分と軽いリアクションに終始する。寧ろハーシーにしてみれば、回避の手間を削った分攻撃に回せるというもの。魔力の反動で動けないイービルアイを、投擲された“骸骨騎士”の剣が、ダーツでもしているかのように真っ直ぐ刺し貫いた。
 それでもやはり、左腕を喪うことは代償にしては重過ぎた。攻撃の手数が減った彼は、次第に周囲を囲まれていく。正確に、かつ確実に弱点を突いてはいるのだが、右腕だけではどうも火力不足。倒したところで数の暴力には勝ち目が無い。囲いは少しずつ、着実に小さくなっていき……

 遂に、槍の一撃が土手っ腹に深々と突き刺さった。

 先程までの擦り傷とは比べ物にならない出血量。勝利を確信しきった槍の担い手は、次の獲物を屠らんと振り返りつつ槍を引き抜き___
__引き抜けない。まるで地面に打ち込まれた杭でも引き抜くかのような……仕留め切った敵兵にこんなことで煩わせられるとは。きっと装飾にでも引っ掛かったのだろう、やれ除けようかと向き直る。

 この魔物は、油断することもまず無い優秀な兵だった。今だって油断した訳ではない、槍で貫けば、命あるものは朽ち果てるのが道理なのだがら。でも、相手が悪かった。

 槍の柄を掴んで、自ら此方に“刺さったまま移動”してきているなど、誰が予想出来る?

「……誇りに思いな。アンタは、俺を“一度”刺し貫いたんだから。そら、コイツは賞賛の代わりってヤツだよ!」

 槍から騎士が手を離すより遥かに早く、串刺しの男が“左腕の爪”を振り下ろした。“エナメルクロー”……エナメル質に覆われた彼の爪は、魔物を切り裂くのに十分過ぎる硬度を有していた。槍を腹部から“引き抜く”男。不思議なことに、その傷口はあっという間に肉で埋め尽くされてしまった。

「魔法とか使える誰か!ちょいとアレなの見せちまったが、引かないで援護頼む!魔物を動けなくして__」

 ピンピンした様子で辺り一帯に援護を求める。その言葉に応えてか、それとも偶然の援護となったのか__言葉を皆言い終える前に、魔法使いらしき少女、瑠璃が何かを詠唱を開始する。

【《-氷柱(アイス・コルム)-》__ッ!】

 詠唱の終了と同時に大気が揺らぐ。刹那の後、無数の氷柱が立ち昇る。突然の一撃に魔物も対応しきれない。瞬く間に場の魔物達の動きが停止した。動き回る相手ならともかく、止まったサンドバッグなど彼には容易過ぎる。刃を薙ぎ、次々と首を刈っていく。と、不意に立ち止まり、一体の凍り付いた首を手に取る。

「援護サンキュー!あ、英雄さん?こいつ、さっきの針のお返し!はいはい、構えて構えて〜……そいやッ!!」

 返礼がてら、“J”に向けて皮肉めいた台詞と共に敵の生首を投げ付けた。流石のJもこれには対応し切れない……と思われたが、魔兵にされた彼の身体能力と経験値は伊達では無い。生首に向けてバッターよろしく剣の腹をぶつけ、ハーシーの元へと送り返してみせる。彼の横を素通りした生首は、元の身体を含めた氷漬けの魔物達を粉々に砕いてみせた。Jの表情は__呆れとも怒りともつかぬ、何とも言い表しがたいもの。ハーシーの方も予想はしていたため、特に驚いた様子もなくグーサインを返すに留めた。

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