~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

77酒場【明けの明星】◆X5668N6XH6
2016-12-29 18:56:22
ID:sIv605C2

ルミナが差し出した仕込み杖、個々で思うところはあったようだが、最終的には同じ選択をしてくれたようだ。改めて全員が揃ったことを確認し、老紳士はマスクの奥で笑みを浮かべた。

『では発ちましょうか。初めての方は目が眩む可能性がありますので、目を閉じることを推奨させていただきます。それでは、3・2・1……』

0のカウントを置き去りにして、皆の姿が消失する。後には、復旧の兆しを見せる荒涼の地に、風が虚しく土を巻き上げるばかり……

【場所:不詳 酒場 -The morning star- 前】

「よっ__とッ! っとっと……。 アイツ、独りで行きやがったな……! あー悪い、アンタら。ルミナは“先に”行っちまったみたいでよ。」

一瞬のうちに浮遊感が通り過ぎると、光景は先程とまるで違っていた。何処か神秘的な空気の漂う地は、悪魔の森のそれと対極にあるかのような雰囲気を醸し出す。が、不思議なことに、連れてきたルミナの姿が何処にも見当たらない。残された一人であるハーシーは、ポリポリと頭を掻きながら皆に振り返った。

「多分ルミナは彼処の中。アイツあんな風して酒場の経営しててさ、それがあの小洒落た建物。ついてきな。あ、もう分かったろうけどここは悪魔の森とは無関係。」

ハーシーは指を一点に向けて差す。その先には、確かに黄色の柔らかな光が漏れる建物があった。彼は言葉を残し、頭の後ろで手を組み歩き出した。口笛の音が高らかに曲を奏でていく……

曲が丁度終わった頃に、ハーシーは木造りの扉の前へ立っていた。打ち付けられた釘に掛かる、“OPEN”の小板。カランカラーン、と鈴の音を響かせて、ハーシーは本日2回目の入店を果たした。

『フフ、先程は失礼しました。片付けを済ませていなかったことを思い出しまして……』
「馬鹿、んなのどうでも良いことだろ。ったく、人に案内放り投げやがって。てか普通は出る前に片付けるよな?」

カウンターの奥に、見慣れない老紳士が一人立っている。銀の装飾眩しい黒ベストに、白いシャツと蝶ネクタイ。柔らかな笑みに銀髪とアンバー色の瞳、そして眼鏡……いかにも“酒場の主”であることを示すかのような風貌の彼。とはいえ、彼が何者かはすぐに察しがつくだろう。カウンターの奥には、先程の仕込み杖と燕尾服、そして特徴的なペストマスクが武具に混じって置かれている。つまり、彼こそがルミナ=ウィリアムズであるというわけだ。

カウンター席にはすでに、ハーシーが腰掛けていた。見れば、カチカチと一定のリズムを刻む柱時計と、その傍らにテーブルもいくつか用意されている。何方の席にも、丁寧にグラスが逆さで置いてある。酒場の主、ルミナが口を開いた。

『では改めて……私は、ルミナ=ウィリアムズです。一応名乗らせて頂きますね。人によっては、私を見るのが初めてということもあるでしょうから。』

カウンターの中から、扉を開けて入ってくる人に挨拶をするルミナ。ハーシーの持つグラスには何か__恐らくは出発前の最後の一杯の残りだろう__が注がれていた。魔力灯がもつ独特の柔らかな光が、店内を満たしていた。

『申し訳ありませんが、まだ何処に何方が座るかがわからなかったもので、まだ飲み物の準備が出来ておりません。何方に座って頂いても結構です……皆さん飲み物のご希望はありますか? 』

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