すると、どこからかオルゴールの音が。
「魚だよ?」
香織さんが指した熱帯魚の水槽には濃い青色のベタが一匹、泳ぎ回っていました。
「のどちゃんとは色が違うねぇ」
魚の目は神経が過敏になってる人の目に似ています。すごく敏感で、頭から尻尾の先まで、そのうえ周囲まで研ぎ澄まされた感性の触覚がのびてるように、とにかくビリビリ「はりつめてる」雰囲気。すごい精神性を感じました。水槽の中の魚はきっと「見られている」ことに気がついてるのかも。
「いつも見られてるっていうのはどういう気分なんでしょうね」
香織さんは答えませんでした。アカの他人に風俗板やコス板で繰り返し言及されるというのはどういう気分なのでしょうか。逆に、天の声・地の声・人の声を聞けとばかりにアカの他人を品評し、尻の穴からあたたかな糞を垂れ流すというのはどういう気分なのでしょうか。私は香織さんと初めて会った日のことを思い出しながら、喧嘩掲示板のどうしようもない言葉の排泄物たちを眺めていました。
(写真がUPされたら、今日から私も見られる側に…。)
その時です。
「わかったよ!」香織さんは笑いながら言いました。
「のどちゃんは自分で自分を食べたんだ」
「かつてホメロスにあってはオリンポスの神々の見物の対象だった人類は、いまや自己自身の見物の対象となってしまった。」(W・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』野村修 訳)
この時、巨大化した広瀬すずがもうすぐ大阪の街を破壊し、通天閣を自らの排泄物で埋めてしまうとは、私たちには想像もできませんでした。