「むーーーーん…」
がっくりとうなだれていた北条秀一は顔をあげ、
「なんだ、また寝ていたか」
とよしおを見ながらつぶやいた。
「はい」
「何か、寝言でも言っていたか」
「いえ」
「ならよい、下がれ」
「はい」
よしおは亜空間を離れる準備に入ったが、そのとき秀一は思い出したように話しかけた。
「精密に全く同じ条件でループさせても、少しずつ結果が違ってくるのは何故だ?」
よしおは観念を停止し、雇い主に対して答えた。
「おそらく、諸力の数は有限でその組み合わせも有限とする我々の世界認識が間違っていたのでしょうな」
「必ず、何か新しいものが生成してしまう、と」
「はい」
「無から?」
「はい、おそらくは『無』からです」
そう言い終わるか終わらぬかのうちに、よしおの姿は消え、
「『無』からです」とするその声のみが広い亜空間にこだまし続けていた。