しばらく歩くと、JRの新快速の車内が再現されたステージに着いた。
「いや、痴漢もののAVですか!」と吹雪がツッコむ。
「まあ、当たらずと雖も遠からず、というところだな」
ありぃは苦笑した。
よく見ると、ガランとした車両のセットの中で、二人のおっさんが向かい合って何かをしている。吹雪は目を細めて見て愕然とした。
「オナニーじゃないですか!」
「そう、こいつらはオナニー合戦、つまり精子の打ち合いをしているんだ」
ありぃは事も無げにそう言った。
「キモッ!」吹雪がそう言うのも無理はない。
「こっちのいかにも頑固そうな顔をしたおっさんは、昼間のガラガラな状態で女性専用車にあえて乗車し、『男性も女性専用車に乗れるかを確認していた』と主張していたおっさんだ」
「あー、いましたね、そんな人。部分的というか、めちゃめちゃ狭い正義感ですよね」吹雪は呆れながらおっさんをにらみつけた。
「『正義』っていうのは、個々の正義の間のバランス感覚を抜いたらただのエゴだからな」
そう言ってありぃは光の速さで「反女性専用車」のおっさんの頭部をバットで粉々にした。
「こっちのいかにも『アイドルヲタ』って感じのおっさんは、‥実は罪人でも亡者でもないんだ」
「え?どういうことですか?」
「『丸山』って覚えてるか?」
「ああ、『キャスフィ避難所』に常駐してた変態ですね」
「そう。あいつは実は私のネットストーカーで、私がまだ『葉っぱ天国』にいた小学生の頃からずーーっと私につきまとっていたんだ」
「そうなんですか。あっ、そういえば、『Tea Room 有栖』とか『アナーキー乙女』のライブ会場でもありぃさんのストーカーがいるっていう話がありましたよね、あれ、『丸山』のことだったんですか!?」
「そう。そして、こいつまだ死んでないのに、生身のままここまでついてきちまったんだよ」
ありぃはそう言うと、今度はゆっくり丸山に近づき、バットをふりあげた。それに気付いた丸山はニッコリ笑って、
「まん貝」
とつぶやいた。パアン!!という乾いた破裂音とともに、丸山の頭部は粉々になり、吹雪の近くに丸山の眼球が1つ、転がってきた。
「面白いものを見せてやるよ」
ありぃはそう言うと、地面に落ちていた丸山の眼球を拾い上げ、M字開脚した。
「え、ノーパン‥」吹雪は困惑した。
ありぃは剥き出しになったオマンコに丸山の眼球を納めると、そのまま後ろに倒れ、仰向けに寝て右脚をまっすぐ天に向かって垂直に伸ばし、左脚は地面にピッタリくっつけて、「L字」のポーズを作った。
はじめありぃの内部に向いていた丸山の眼球はクルッと上下に回転して外側を向き、吹雪と目が合った。
血走った丸山の目は、はじめ怒っているように感じられたが、目玉の下から透明なありぃの愛液がツゥーっと垂れてくるに及んで、ようやく吹雪は事態を把握した。彼は泣いているのだ。
ここにまた新たな『仏(ホトケ)』が誕生した。ホトケの名を「ロスト・アスホールズ(どうしようもないケツの穴)」という。名前がアレなんで、アレだと思うかもしれないが、仏教でいえば「阿弥陀如来」に相当するホトケである。俺以外誰も俺を愛していないという絶対的事実がそのままの形で救いとなる、そんな世界。
気がつくとありぃは丸山とともに消えていた。吹雪はまたひとりぼっちになった。