~手紙より集まりし者達~Worship of nothingness (連続リレー小説)

15ハーシー&ルミナ
2016-11-20 00:05:35
ID:dA4kL4oo

>>12より続き)
「……あんたも、金については大概だったと思うけどな?ま、いいさ。事実を否定する必要も無し。で、何が贈り物だって?」
 カウンターから乗り出し、贈り物の答えを見出そうと息巻くボロ男。だが、期待感を満面に湛えた男は無視し、主は何処からか取り出して来たティーカップに茶を注いだ。店を仄かな香りが包む。

『貴方は答えを急ぎ過ぎる癖がある。ほら、これでも飲んで落ち着きなさい。こちらも“夏の国”原産のハーブティーですよ。』
 主は自然な流れで“男の顔面を”手で退けた後、ティーカップをカタリと置く。明らかに不満顔へと変貌を遂げるボロ男だったが、いざハーブの香りを嗅いでみると、不思議と怒りも薄れてしまった。軽く咳払いをして、彼はガチャリと皿からカップを取った__

__奇術というのは、正しくこのことを指して言うのだろう。カップの離れた皿の上には、【先程まで無かった筈の】開封痕の無い封筒が現れていた。主が開けるように促すと、男はカップをカウンターへ置き去りにし、ビリリと躊躇無く封を破り捨てた。果たしてそこには手紙があった。宛名は当然のように《元討伐隊へ》。

「……なるほど、“元討伐隊へ”、なんてねぇ。俺も元討伐隊なんだけど? そうかいそうかい、魔王打ち倒した奴じゃなきゃ力不足ってか。あんたにゃ悪いが、“戦没者”はお呼ばれじゃねーそうだ。俺には報せの一つも無かった。」

 右手が最初の数文字をなぞったが最後、手紙はポンと放り投げられてしまった。カウンターを横滑りし、再び主の元へと無念の帰還を遂げた。流石の主も呆れたか、首を横に振りながら深い溜息を吐く。
『まったく……貴方にハーブティーを勧めて正解だった。落ち着いて考えなさい。私は戦闘員としては優秀な方では無かった、寧ろ情報伝達等の裏方仕事が主でした。それでも私には召集が来た__つまり、功績を認められたということに他ならない。それでは貴方はどうだ、情報伝達員としての有望株だった私を、“命を懸けてまで”護り抜いた貴方は? 権利を得るというのが妥当でしょう。』

 眉間の皺が深くなった主は、茶をガブ飲みする男へと諭すように語り掛ける。主の話術が巧みだったのか、はたまた予想外の香りの芳醇さにむせ返ったボロ男が単純だったのか……ボロの男の顔にも、僅かに光が差し始める。
『更に言えば……今回貴方が活躍出来れば、過去の栄光が認められて懸賞金の一部が支払われるかもしれない。あるいは追加報酬だって__』
「__夢じゃない、確かにそうだな……。こいつは見事な贈り物だな、感服だ。」

 先程までの皮肉は何処へやら、皆まで言い終える前に男は結論へと達したようである。さて、時計を見上げてみれば__丁度、長針が半を回ったところであった。笑みを取り戻した主が、再びグラスを手にして語る。
『では、出立の準備を致しましょうか。幸い、“役者”が揃うまでには半日以上猶予があります。それまでは此方で、日常との惜別を味わうというのはどうでしょう。』
「おいおい、寝るつもりは無いのか?」
『寝る間も惜しい。』

 台詞を置き去りに、主は再びカウンターの奥へと消える。暫しの後、出て来た彼の手にはシャンパンが握られていた。慣れた手つきでコルクを抜き取り、2つのグラスへと注ぎ込む。白銀の煌きが、パチパチと両者の門出を祝い続ける__

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