>>11
朝、俺はシャワーを頭から浴びながら考えていた。もし今日から俺が帰ってこれなかったら、もし俺が死んでしまったら誰があの娘の子守りをするんだ?
答えは俺が死なずに帰ってくれば良いだけだ、それだけだ。
今の俺には帰らなければならない場所がある。今までの俺には無かった場所があるんだ。
非常に単純な答えに着地した俺の心。決心して、シャワー室を出た。
秋の始まりの微妙な肌寒さ。それに包まれながら身体を拭いて、衣を纏い、赤い封筒を持って玄関の方へ向かった。その時だった。
俺のジャケットの裾を掴む細い手。弱々しく引っ張られる身体。
そして小さな声で、俺の服を掴む主は囁いた。
「どっか、行っちゃうんですか。」
弱々しい、華奢で可憐な声。
「すぐに帰ってくる。」
彼女の方へ振り向き、俺は一言返して玄関を出た。
心が痛む。苦しい。こんな痛め付けられるのは二年ぶりだ。
震えそうになる脚を無理矢理動かし、俺はバイクのギアを入れて走らせた。
向かうは、夏の国。