蛙は青い海を知らない。
だって、知ってしまったら死んでしまう。
私は何も知らない。
この部屋から出たら最後、私はきっと死んでしまう。
蛙は塩分に弱い。数分で体中から水分が吸い出され、ミイラになって死ぬ。
そして蛙は青い空を知らない。蛙は青色を判別出来ない。
私も、青い空を知らない。波の音も、風の声も、緑の山々も、私は何も知らない。
ー20xx年。日本は完全な工業国となった。
狭い敷地に高く積み上がった煙突と工場。全国の言葉・服装・職業、全てが統一された日本。
その人々は、『チルドレン』と呼ばれていた。
空は今日も灰色だ。
煙突から吐き出された煙が、空を覆い隠している。
私はNo.1084。全て統一された日本で1084番目に産まれた『チルドレン』。
雨が降ることは無いが、晴れることも無い。日光とほぼ同じ働きをしてくれるライトのおかげか、人々が体調を崩す危険も無い。
無言で家を出る。挨拶なんて何も無い。ただ同時に手を合わせて、同時に箸を掴み、同時に食べ終わる。父も母も私を産んだから私と共に居るだけ。ただ、それだけ。
言葉なんて一言も無い。声を出すことも滅多に無い。
私達チルドレンは外見も統一するために、口元をチャックで覆われたマスクを頭から被っている。これを取ることは許されていない。
食事をする時以外、チャックは外さない。
ふと、線路の方を見た。
犬が走っている。電車が通る。犬は消える。
毎日のように見る場面だ。犬の行動すら、この国では統一されている。
自由など無い。しかし、安定した生活を保証される。
蛙は海を知らない。知らない方がいいのだ。
皆紙に書くことは同じ。成績も同じ。ただそれだけだ。
灰色の空と煙突。
もしも空が晴れたなら、と考えることがたまにある。
空は本当に青色なんだろうか。本当は赤色なんじゃないか。海の波はどんな音がするのか。風の柔らかさはどれだけ柔らかいのだろう。
沢山の並んだ紙。同じ絵が描かれた紙。なにも無い。何も感じられない。美しいとも、嘆かわしいとも思えない。
嗚呼、なんて残酷なんだろうか。きっと神様は子供に違いない。だって、子供は残酷だ。まだ世界を知らない子供たちは、私たちを指差してこう言う。
「かわいそう」とだけ。
何も言わない母に手を引かれ、そしてどこかへ消えていく。
同じ、同じ、同じ。
どこを見渡しても全てが同じ。
灰色の空だ。
どうして、とも、何故、とも聞かない。答えは分かっている。
チャックは壊れた。
私達は暴動を起こした。
持てるだけの武器を持って、街のどこかへ走っている。行先は知らない。煙突と煙突のあいだを縫って、人の波に流されていく。
ふと、横を見た。
犬が走っている。電車が遠くに見える。
まだ間に合う。
私は走った。ひたすら、足を動かす事だけ考えて、走る犬に向かって。
犬を掴み、走る電車に跳ね飛ばされた。
…生きている。
犬は逃げた。初めて、初めて私が変えたこと。
「…あはっ」
ざまあみろ、と思った。やっぱり、とも思った。
「ふふ、あははは、あはははははは!!」
嗚呼、やはり神様はは残酷だ。
赤い、赤い血が流れる。
全て、全て同じだ。この暴動も全て計画されていたことで、それを国も知っている。
空の色は変わらない。ふっと、意識はそこで途切れた。
ー20xx年、日本全国で暴動が起こった。それは全て計画されたことで、全て政府は知っていた。
政府は適切に対処し、けが人・死亡者も居らず、全て無事に終わった。
同日。
1人のチルドレンが死亡した。
死因は電車との接触による出血多量。腕に犬の毛が残っていたことから、犬を掴み電車と接触したと見られる。
そのチルドレンの血液型によって、そこは、小さな赤い海のようになっていた。
父「…せりなか?」
せりな「…ああ」
父「やっと電話出たな。三年ぶりだぞ…暴動事件以来、何度も電話かけたんだ。ったく心配させやがって次からもちゃんと電話にでろよっ!」
せりな「要件は何?」
父「今後の話をしてぇから一度実家に帰ってこい」
せりな「ヤダ、話なら今電話でしろよ」
父「ダメだ帰って来い!忘れたのか?もうすぐ母ちゃんの命日だぞ。……挨拶しに来い。いいな?」
三年と2ヶ月‐‐‐父親と喧嘩して飛び出した実家
久しぶりに帰省する
他人の人生を奪ってまで生きようとするヤツ、今まで通り普段と変わらない日常を過ごすヤツ…ただなんとなくそこにいるヤツ
どいつも終わりを受け入れようとしていない気がする
『ザッーーポーン,間もなくもすの巣~避難所ホール扉前』
--過去--
父「俺は見たんだこの目でッ‼青い空を…見渡せば広く晴れている青い空を…まだ人類が生きられる場所が残っているんだ!信じてくれる同志がいたら一緒にあの島を探してくれないか?」
ケッ!何が青い空だ。
あるわけねぇだろそんなもん
毎度よくもまあ飽きずにバカな演説してやがる
青い空だの生きてる鳥だの絵空事ばっか並べやがって…
「とんだ嘘つき野郎だな」
せりな「……っ」
「……?なんだい?お嬢ちゃん」
母「せ…せりな!」
母「ごめんなさいっこの子ったらお父さんと間違えたみたいで」
母「どうしたの?せりな…」
せりな「お母さん…あたし恥ずかしい。お父さんがみんなの前でお話するの…どうせみんなバカにして信じないもん…」
母「そうね。でも私達はお父さんを信じてあげようね」
≪家族だから……ね≫
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なずな「おねーちゃん!かえってたのー?ひさしぶり~」
せりな「なずな…元気そうだな」
なずな「げんき~おねーちゃん!」
せりな「ん?」
なずな「ひさしぶり~!」
せりな「な~ずな~二回目だぞぉ?」
なずな「あえ?なにがー?」
妹はちょっと足りてない。ちなみに足が悪いのは父さんの遺伝…
せりな「あれ?おまえ人形は?変な動物の…いつも持ってたろ?」
なずな「どーぶちゅ?」
父「なずな」
せりな「……(ドキッ)」
父「落としてたぞ人形」
なずな「おとーちゃん!おねーちゃんだよ!」
父「おー…なんだ着いてたのか。久しぶりだな……元気だったか?」
なずな「…?おねーちゃん?おとーちゃんだよ?
せりな「わかってる」
実況中継『20xx年。再び日本全国の暴動が起こりようとしており非常に危険な状況です。皆さんもそろそろこの国とお別れする準備をーーザッ』
なずな「おねーちゃんとごはん!ひさしぶりだね」
せりな「あ…ああ」
なずな「おとーちゃん!おいしいねおねーちゃんのごはん」
父「うめぇもなにも人口鮎以外は全部レトルトだからな…評価しにくいが全体的に味付けが濃い。もちっと塩を控えた方がいい」
せりな「塩焼きはこれぐらいがいいんだよっ💢」
父「あ?ああいや別に…貶してるわけじゃねぇから…」
せりな「………」
初めて作ってやったのに少しは言葉を選べよ。そういう不器用なところがキライ
なずな「おとーちゃん!おいしいねおねーちゃんのごはん」
せりな「…なずな。同じこと二回言うな」
父「それよりよ…色々聞きてぇことがあんだがおまえが家を飛び出して3年…その間今までなにやってたんだ?」
せりな「あたしがどこでなにやってよーとアンタには関係ないだろ」
父「まぁ追及するつもりはねぇんだ…生きてさえいりゃぁそれでいい…こうやって帰ってきただけでもよしとするさ…」
せりな「別にアンタのために帰ってきたわけじゃない。母さんに会いにきただけ…ほんとはアンタの顔も見たくねーんだ」
父「あのよぉ母ちゃんが亡くなってからおまえが俺を敬遠してるのは知ってっけどな。いつまでそうやって拗ねてるつもりだ?」
゛「いいか?3年間おれがお前に干渉しなかったのは母ちゃんへの気持ちを整理してもらう為だったんだぞ。もうガキじゃねぇんだいい加減現実を受け入れろ」
父「まぁ俺だって悔いはあるさ、母ちゃんと一緒に見たかった。青い空をな」